第51回大河内記念技術賞
高清浄高疲労寿命弁ばね用線材の開発
1 開発の背景
自動車用のエンジン部品である弁ばねは、1分間に数千回という高速繰返荷重を受け、自動車部品の中でも最も過酷な条件下で使用され、長期間の信頼性が要求される部品である。このため、弁ばねには、走行距離10万km以上、あるいは10年間で疲労破損しない高い疲労強度と、使用中に弁ばねの高さがほとんど変化しない、耐へたり性が要求される。従来使用されてきた弁ばね鋼にくらべて疲労強度を高め、かつ高強度の材料を開発することは、弁ばねの重量を低減できることを通じてエンジンの高性能化に多大な貢献をすることが期待できる。
2 特徴と成果
本業績は、まず弁ばね用鋼において鋼中に存在する介在物の大きさと疲労寿命とに相関があることが知られていることに着目し、・介在物の組成と大きさの関連を詳細に調査し、介在物中のSiO2濃度を低減すると介在物の大きさが減少すること、・そしてこの要因はSiO2濃度が低下することにより介在物の粘性が低下し、このためにその後の線材への熱間加工における変形抵抗が減少し、圧延時に伸延しやすくなることによることを明らかにしている。
この成果は、介在物を構成する3種の酸化物からなる三元系状態図の知識に基づく熱力学計算結果に対する考察から巧妙に生み出されたものであり、この発見をもとに溶鋼処理時の介在物組成を精密に調整する手法を骨格とし、付随する表面処理等の周辺技術の開発と徹底した作業工程管理に基づく現場技術により、介在物折損に対する信頼性が非常に高く、疲労強度を従来材に比べて40%向上させることに成功している。これにより弁ばねの小型・軽量化による自動車エンジンの小型化と高性能化が可能となり、新型エンジンへの適用が進んでいる。
3 将来展望
本業績により開発した高強度弁ばね用鋼は、すでに市販車用エンジンをはじめとして、レース用自動車エンジンにも使用されている。現時点では過去3年の市場占有率は5%程度であるが、このような重要保安部品の開発品が市場に投入されてから市場に行き渡るまでには10年程度を要するため、10年後には市場の主力製品となると見込まれる。また本業績の主要開発技術である介在物制御技術は、ばね鋼だけでなく、スチールコード用鋼や鉛フリー快削鋼等の高性能化においても適用できる重要な技術として位置付けることができる。