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第66回大河内記念賞

超大型コンテナ船の脆性き裂伝播を抑止する集合組織制御型極厚鋼板の開発

 

1 開発の背景と内容
輸送コストの圧縮と環境負荷低減のために超大型コンテナ船による低速航行・大量輸送の時代を迎えている。コンテナ船は大量のコンテナを船体上部から積載するために大きく上部が開口し、例えば長さ400mの大型船においては船体にかかる曲げモーメントに対する船体剛性を上部構造部材のみで確保する必要があり、極厚(最大100mm)高強度鋼板が使用される。このような材料においては、万が一溶接部から脆性破壊が発生した場合の致命的搊傷の影響が懸念されるところであり、これを防止する観点から脆性き裂伝播停止性能(アレスト性)の向上が望まれる。これまでの板厚70mm以下の鋼板におけるアレスト性の確保は鋼材の組織微細化によるじん性の向上により達成されてきたが、近年の超大型コンテナ船に用いられる極厚高強度鋼板では厚さ方向に均一に組織微細化を行うことが困難であり、新たな手法が必要となった。

 

2 特徴と成果
本業績はこの目的のため製造時のTMCPプロセス(制御圧延と加速冷却を組み合わせた鋼板製造プロセス)において、まず制御圧延において板厚方向の加工集合組織の形成を発達させ、ついで加速冷却段階での相変態に伴う変態集合組織を確保するという世界初の手法を用いており、脆性き裂伝播部の破面にへき開面に沿った多数のサブクラックを形成する事によるアレスト性を確保するものである。これにより従来技術と比較して2倊以上にアレスト性を大きく向上させることに成功している。さらに、従来のアレスト靭性評価に用いられていた標準ESSO試験は大型試験機を用いるため費用や試験期間に課題があり工程的に全数保証することが困難であったが、最も小型の破壊試験の一種であるプレスノッチシャルピー試験による経済的な簡易評価技術を開発した。これにより極厚鋼板のアレスト性を短時間、高精度で判定でき、また開発鋼の全量保証を可能にしている。本技術は各国船級協会の承認を取得し、将来の世界標準化につながる成果をあげた点も高く評価できる。

 

3 将来展望
この技術開発をもとに、2014年国際船級協会連合統一規則発効に先立ち超大型コンテナ船用の極厚高機能鋼板群を実用化して以来生産量は拡大し、これまでに150,000トン以上を出荷している。全世界で建造される18,000TEU超(20フィートのコンテナを18,000個以上積載できる)の超大型コンテナ船プロジェクトにおいては、全体の約60%のプロジェクトで適用されており、今後も超大型コンテナ船の製造に必須の技術として世界の物流効率化に貢献するものと思われる。