第58回大河内記念技術賞
温度特性に優れた超小型弾性表面波デュプレクサの開発と実用化
1 開発の背景と内容
送信用と受信用の信号をそれぞれの周波数帯域でフィルタリングして送受信を同時に行う機能をもつデュプレクサには、小型であることに加えて、温度変化による周波数変動がなく挿入損失の劣化のない特性が求められる。従来の誘電体デュプレクサでは形状が大きく、また弾性表面波(SAW)デュプレクサでは要求特性を満たすものはなかった。本業績では、SAW基板構造について、圧電基板、高密度電極、温度特性改善のための被膜のそれぞれの材質と形状を検討し、新しい基板構造を開発した。これにより小型で要求特性を満たすSAWデュプレクサの実現に成功した。さらに、高品質を管理する工業的生産技術を確立し、優れた生産実績を達成した。
2 特徴と成果
温度特性改善のために、正の周波数温度係数をもつSiO2膜を負の温度係数をもつ圧電基板上に形成する手法が提案されていたが、十分な特性は得られていなかった。特性低下の原因がSiO2膜表面の凹凸によることを明らかとし、表面平坦化を行うとともに、適切な弾性表面波反射係数が得られるCu高密度電極膜、それぞれのシステムの帯域に適した電気機械結合係数をもつ圧電基板(LiNbO3あるいはLiTaO3)を採用した。さらに、実用上の課題である周波数ばらつきに対して、基板最表面にSiN膜を形成してそれをエッチングすることにより周波数調整する技術を開発した。これらにより、従来の誘電体型に対して体積サイズを1/150に減少でき、SAWデュプレクサの温度変動による周波数変動を1/4~1/8に、挿入損失を0.4dB改善することに成功した。この特性と高い品質管理技術によりアメリカを始めとする世界各国のスマートフォン、携帯電話に採用され、2010年度には売上個数3億個超、売上金額120億円超を挙げるに至っている。
3 将来展望
携帯電話やスマートフォンの通信システムを用いる周波数帯域は、世界の様々な地域で異なる。そのため、機能の多様化や全世界での使用を可能とするグローバル端末化には、優れた特性のデュプレクサの開発が不可欠である。通信の品質向上、コンテンツの大容量化に向けても今後も需要の拡大は確実である。本業積は、将来も著しい発展が予想される通信産業の基盤を支える、重要な生産技術といえる。