第58回大河内記念技術賞
超低スパッタ正極性炭酸ガスアーク溶接技術
1 開発の背景と内容
炭酸ガス溶接は全体の33%を占める主要な溶接法であり、さまざまな分野で適用されているが、アークが比較的安定して維持できることからこれまで広く用いられて来た逆極性溶接(ワイヤがプラス極)では、粗大な溶滴によるスパッタが多発するという大きな問題があった。本業績は、アークが著しく不安定であることから適用されてこなかった正極性溶接(ワイヤがマイナス極)の課題を、仕事関数の低いREM(希土類金属)をワイヤに適量添加して正極性での陰極点制御技術を確立することにより克服し、従来比1/10の極低スパッタ化と従来比1/2の狭開先化を世界で初めて実現したものである。これにより、スパッタの発生が極めて少ない静粛な溶接、スパッタ付着のない綺麗な仕上がり面、片面溶接における安定した溶け込みなどが実現し、炭酸ガスアーク溶接に技術革新をもたらした。
2 特徴と成果
REM(希土類金属)をワイヤに適量添加した正極性溶接(ワイヤがマイナス極)により、アークの安定化、液滴揺動の抑制、液滴の微細化を可能とし、従来比1/10の極低スパッタ化と従来比1/2の狭開先化を実現している。これにより、溶接時間すなわち工期の短縮(50%)、省エネルギー化によるCO2の削減(50%)、使用溶接材料の削減(50%)ばかりでなく、溶接騒音の大幅低減やヒュームの低減など溶接作業環境の向上にも大きく貢献できる。すでに、羽田空港滑走路拡張工事、大型タンカーやコンテナ船の建造、トンネルセグメントなどの鉄骨建造物に広く適用され、高い評価を得ている。
3 将来展望
本業績の適用例は、現在のところ限られているが、新たな設備投資が不要であることから、建築・鉄骨・橋梁・造船・建機などの幅広い分野での適用拡大が見込まれ、今後は海外を含めたさらなる展開が期待される。