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第56回大河内記念生産賞

高安全性・高性能リチウムイオン二次電池用セパレーターの開発

 

1 開発の背景と内容
リチウムイオン二次電池は、Liイオン、有機溶媒を使用するため、開発当初から充放電時の異常反応による発火が懸念されており、その普及には安全性の確保が最も重要な課題であった。
本業績では、まず安全性確保の機構をセパレーターに付与する検討が行なわれた。すなわち、異常発熱時にセパレーターとして用いたポリマーが溶融し、微多孔が閉塞することによりLiイオンの透過が阻止され、電池の発熱を防止する機構である。しかし、開発初期には、融点の値から適切な材料と予測されたポリエチレンでは、工業的な微多孔膜製造技術が存在していなかった。
本業績は、ポリエチレン微多孔膜の孔径を広範囲に制御する技術の開発により、安全機構を持つとともに電池性能の向上に寄与するセパレーターの開発に成功し、工業生産技術を確立したものである。

 

2 特徴と成果
リチウムイオン二次電池用セパレーターには、絶縁性や電解液親和性に加えて、Liイオン透過性に優れる大孔径多孔構造と高い機械強度が要求される。
本業績では、
(1) 安全機構を付与するため、これまで工業的に利用されていなかった熱誘起相分離法を適用してポリエチレン膜の孔径制御技術を開発した。
(2) さらに、大孔径構造と高機械強度を両立させるため、ポリエチレン-無機粉体-溶剤からなる系で製膜し、溶剤・無機粉体の抽出後に延伸するという手法を開発した。
これにより得られる多孔膜は、優れた安全機構を実現するとともに、容量維持率向上など電池性能も向上させた。また、セパレーターの安全性評価方法や大規模生産における品質管理技術も確立した。これらの成果により、これまで世界市場の5割近くを占める優れた生産実績を残している。
本業績はリチウムイオン二次電池の普及にも大きく貢献しており、リチウムイオン二次電池を搭載した携帯電話は、2007年以降、世界で年間10億台を超える出荷台数となっている。

 

3 将来展望
現在、携帯電話、ノートパソコンのほとんどすべてがリチウムイオン二次電池を用いており、リチウムイオン二次電池の開発がその市場を形成・拡大したといっても過言ではない。今後も携帯情報機器利用の拡大に伴い、需要の増大は確実である。さらに、電気自動車やハイブリッドカー用の電源としてリチウムイオン二次電池が期待されており、今後の著しい市場増大が予測されている。
本業績は、大きな発展が期待されるリチウムイオン二次電池関連分野の産業基盤を支える、重要かつ貢献度の高い生産技術といえる。