第56回大河内記念賞
前立腺肥大症に伴う
排尿障害治療薬塩酸タムスロシンの創製
1 開発の背景と内容
1970年代後半、新規高血圧治療薬の創製を目的として交感神経α1受容体遮断薬の研究を行ない、当時最強のα1遮断作用を発現する化合物を見出した。このα1遮断薬の創製研究に平行して、循環器領域とは異なる新たな疾患領域への展開を追求すべく研究を行なった。その結果、前立腺および下部尿路の収縮機能に関する薬理学的研究を通して、α1受容体刺激による両組織の機能的収縮が前立腺肥大症に伴う排尿困難の原因であることを明らかにした。これらの発見をもとに、前立腺選択的α1受容体遮断作用を有する化合物を創製し、新規排尿困難治療薬として開発することを目標とした。その結果、血圧に影響を及ぼさない、前立腺選択的α1受容体遮断薬の創製を成し遂げた。
2 特徴と成果
抗高血圧薬として先に開発した交感神経α・β受容体遮断薬アモスラロールの光学異性体(S体)が強いα1受容体遮断作用を示した知見を基に、まずタムスロシンのラセミ体が非常に強いα1受容体遮断作用を有することを見出した。更に、各々の光学異性体を評価した結果、R体であるタムスロシンがS体よりも600倍強いこと、および前立腺選択的であることを発見し、また、光学活性体の工業的生産にも成功した。日本、欧州、米国で実施された臨床試験において、タムスロシンは前立腺肥大症に伴う排尿障害を有意に改善し、副作用も少ないことから、高い評価を得、平成5年に先ず日本で上市され、その後、世界各国で上市された。
(1) 業績の独創性:
前立腺や下部尿路の収縮機能におけるα1受容体の役割を明確にするとともに、血管と泌尿器ではα1受容体のサブタイプが異なることを世界に先駆け明らかにし、タムスロシンを前立腺選択的α1受容体遮断薬として排尿障害の領域で一番手として上市した。
(2) 克服した課題:
前立腺選択性の実現、光学活性体での開発等。
(3) 学術・産業・社会等への貢献度:
前立腺肥大症に伴う排尿障害の従来の治療法は肥大した前立腺を切除する外科手術が主流であったが、本薬上市後は内科的治療が主流となっている。また、本薬の研究開発が契機となり泌尿器科学におけるα1受容体サブタイプ研究が発展した。
国内の売上高は356億円(2008年)であり、国内および海外の連結売上高は1,166億円であるが、国内では2004年度に494億円、連結売上高では2005年に1,378億円のピーク時売上高を記録した。
3 将来展望
現在、タムスロシンを含むα1受容体遮断薬は、前立腺肥大症に伴う排尿障害の第一選択薬として位置づけられており、さらには徐放および口腔内崩壊錠という新たな製剤的工夫もなされていることから、今後も医療への継続的貢献が期待されている。