第55回大河内記念技術賞
世界初有機ELテレビの開発と量産化
1 開発の背景と内容
有機物あるいは無機物に電界を印加すると発光する現象EL(Electro-Luminescence)は、薄型テレビを実現できる現象として長らく研究されてきた。当初、無機材料では必要な電界強度が大きく、また、カラー画面に必要な3原色が得られないこと、有機材料では輝度が十分でない欠点から実用化の見通しがなかった。
1987年、効率よく発光できる有機薄膜が蒸着で作製できることが明らかとなり、再度、注目を浴びるに至った。受賞者グループは1994年からこの有機薄膜を用いたテレビの開発に着手し、様々な問題を克服し、2001年、当時世界最大の13型フルカラー有機ELディスプレイを試作発表し、2007年には世界で初めて有機ELテレビの商品化に成功し、またそのために必要な量産技術を確立した。
2 特徴と成果
(1) 各セルの能動駆動回路を設計から見直し、線形的に輝度を変化させる能力を保ちつつ、最小のトランジスター数での駆動を実現した。
(2) また、トランジスター等を含む画素回路を全て裏面側に配置し、発光光は上部の半透明電極を通過させる構造に加えて、RGBの色ごとに有機層の膜厚を最適化(マイクロキャビティ構造)させることで高輝度・高色再現性を実現する「スーパトップエミッション」方式を開発した。
(3) 更にカラーフィルターを併用することで、外光の反射を遮断するとともに高輝度(円偏光板を使う場合に比べて2倍以上)、および極めて高いコントラストと色再現性を有するディスプレイを実現した。
(4) また、独自の完全固体封止技術を開発して長寿命化を実現、有機薄膜を均一に(厚さ分布±5%以下)高速で蒸着する装置を開発することで量産化にも成功した。
現在の生産能力は、月産2,000台であるが、市場のニーズに合わせて生産能力の向上は可能である。
3 将来展望
現在、既成のフラットパネルディスプレイが、大型化と価格競争が厳しい中、価格的には高価であるが、既製品の多くが最大で数万:1程度のコントラストであるのに対し、1,000,000:1以上のコントラストが実現でき、高速応答(数μsが可能)と広い色再現性(NTSC比100%以上)を有しており、また、厚さも最薄部が3mmである点など従来と異なった特徴を有しており、当面は、高性能テレビとして普及すると思われる。また放送用撮影装置のモニターへの利用開始が決まり、更に27型テレビのプロトタイプも試作されており、多くの可能性を有している。長期的には、現在のフラットパネル(プラズマパネル、液晶パネル)に置き換わる可能性も充分に高いと期待される。