第55回大河内記念賞
高血圧治療薬アンジオテンシンII受容体拮抗薬
カンデサルタンシレキセチルの創製
1 開発の背景と内容
高血圧治療薬として、強力な昇圧因子であるアンジオテンシンⅡ(AⅡ)の生合成を阻害する薬剤が用いられてきたが、本薬剤は空咳などの副作用の問題を有し、より安全性の高い薬剤が強く求められていた。研究チームは、薬剤の副作用を低減するためにはAⅡ受容体に直接作用してその機能を阻害することが重要であり、より高い降圧作用も期待できると考え、世界初の非ペプチド型AⅡ受容体拮抗薬(ARB)を見出すに至った。さらに本化合物に創意と工夫を凝らして、強力な降圧作用を有し、良好な経口吸収性と長い作用持続性を有するカンデサルタンシレキセチルを開発した。
2 特徴と成果
これらの成果により、ARBが新しいカテゴリーの降圧薬として、優れた降圧作用と高い安全性を有する高血圧治療薬の第一選択薬として世界に広く受け入れられ、現在最も使用されている降圧薬の一つに成長している。
本薬剤は、1997年欧州(アストラゼネカ社と共販)で発売されたのを皮切りに、1998年に米国(アストラゼネカ社販売)、ついで1999年に日本でも発売された。日本では発売5年後、売上高が1000億円を越え、医薬品のブロックバスターの仲間入りをし、現在、日本はもとより、全世界約90ヵ国で発売されている。2007年度の医薬品総売上高において、日本で第1位(約1500億円:ims Japan KK)に、世界で第25位(3327百万ドル:ユート・ブレーン ニュースリリース)にランクされ、世界の医療現場で人々の健康と医療の向上に貢献している。
3 将来展望
本薬剤は、これまで多くの大規模臨床試験を実施または実施中であるが、例えば、CHARM試験(慢性心不全の有効性を確認する試験)、ARCH-J試験(心不全症状の明らかな悪化を抑制し、日本で唯一の慢性心不全の効能を取得)およびCASE-J(糖尿病の新規発症において有意に低値であった)などで良好な結果を得て、降圧作用以外に日米欧3極で心不全の効能を取得している唯一のARBである。さらに、昨年9月に明らかにされたDIRECT試験では、ARBとしては初めて2型糖尿病患者において糖尿病性網膜症を改善するという有益な知見が得られた。今後、更なる臨床試験を経て新しいカテゴリーの高血圧治療薬として重要な地位を占め、高血圧や心不全のみならず糖尿病の新規発症予防にも貢献することが期待される。