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第54回大河内記念技術賞

話速変換技術機能を搭載したラジオ・テレビの開発

 

1 開発の背景と内容
近年のラジオやテレビの放送が「早口に感じられて聞き取りにくい場合がある」という多くの高齢者が感じている問題を解決するために、早口の音声をリアルタイムに、あたかもゆっくりと話しているような速度に話速変換する技術が求められている。単に音声信号を一様に伸張してゆっくりとした音声を再生する技術は従来からあるものの、放送においては時間内につじつまをあわせて視聴したいという要求がある。特に、テレビでは時間遅れを蓄積させず画面との同期矛盾を起こさないように話速変換する必要がある。
本業績は、これらの問題を解決可能な話速変換アルゴリズムを研究開発するとともに、そのアルゴリズムをLSI化することで生産コストを実質的に無視できるようにして、日本ビクター製の市販の受信機の標準機能とした。これにより、ユニバーサルデザイン採用のラジオ機1機種および液晶ハイビジョンテレビのすべてに搭載することに成功している。

 

2 特徴と成果
本業績では、世界に先がけて発話開始時のみならず声の高いところを伸ばすことや、息継ぎ以外の間も見つけ利用するなどの工夫をして問題を解決し、テレビにも適用可能としている点に技術的な特徴がある。
回路を1チップにしてボードに搭載し、話速変換機能追加のための特別の工程を加えることなく実装可能としたことにより、プロジェクションテレビの100パーセント、液晶テレビ47インチから20インチの製品ではベーシックモデルを除くすべてについて搭載可能とした点に生産上の特徴がある。
一般的に、福祉用の機器は、せっかく良いアイディアがあっても販売台数が限られることから実用化されにくい。本研究開発は、「NHK」と「ビクター」の情熱が機動力となり、ラジオから始まり、テレビにまで適用し、日本ビクターのほぼすべての製品に実装するに至った数少ない成功例である。

 

3 将来展望
高齢者用の開発でありながら、実際には高齢者以外の一般の視聴者も、多くこの機能を享受している点に今後の展望がある。例えば、外国語放送をゆっくり聞いたり、語学学習でリスニングの訓練をするなどの応用である。当該開発メーカーも、究極の臨場感を追及するという、それまでの方針に加え、人に優しくという新しい視点が加わり、製品の差別化が可能となったとしており、その意味からも意義深い研究開発である。今後、これを契機として、音だけでなく、視覚においても、高齢者に優しい、従って一般の人にも優しい、そういった映像の工夫がなされ商品化して行くことが大いに期待される。