第52回大河内記念生産特賞
交換結合型磁気記録媒体の開発と実用化
1 開発の背景
ハードディスクドライブ(HDD)は、大容量でかつ高速書き込み・読み出しが可能な記録装置として、デジタル機器に広範に用いられている。しかし、取り扱われるデータ量の爆発的な増大とともに、単位サイズ当りのHDDに要求される記録量も増大し続けている。HDDの記録を担っているものは磁気微粒子の集団であるが、記録密度の増加に反比例して、ビット当りの粒子サイズ、粒子数とも必然的に減少する。これに伴い、ビット当りに蓄えられたエネルギーも減少し、熱揺らぎによる情報消失のために、およそ40Gb/in2で記録密度が限界を迎えるであろうと予測されていた。
2 特徴と成果
熱揺らぎに勝つためには、情報を保持している微粒子群の磁化を実効的に増やせばよい。このため、本技術においては記録層の下にRuの薄膜を介して反強磁性的に結合する第二の強磁性層を配置した(SFM)。このような多層膜構造は、磁気ヘッドの感度を向上させるために、IBMなどで1990年代初めまでに研究されてきたものであるが、一様な大面積を必要とする記録媒体に応用した点に特徴がある。製造は完全に閉じた一連のスパッタリング工程により行なわれ、Ruの膜厚は0.7nmという薄さに制御されている。これにより、2000年には56Gb/in2の試作機を完成させ、2004年には85Gb/in2の量産を開始し、現在100GBを超えるモバイルHDDが市販されるに至った。2004年度における同技術を採用した富士通製の2.5インチ型モバイルHDDの出荷台数は1400万台に達し、市場の4分の1を占める。さらに、本技術は殆ど現行のディスクに事実上用いられている。
3 将来展望
現在、事実上の業界標準の技術であるが、本技術の更なる展開によって、水平記録方式においても数倍の記録密度の向上が期待できる。また、垂直記録方式にも適用可能な技術であることから、今後もHDD高密度化を牽引する中心的な技術であり続けると期待される。