第71回大河内記念技術賞
連続鋳造圧延方式による高強度・高耐摩耗性を有する電車線用銅合金材料の開発
株式会社プロテリアル 蛭田 浩義 他4名
1 開発の背景と内容
鉄道は、交通手段として重要な社会基盤であり、鉄道の寸断は大きな混乱を引き起こす。このため、きめ細かな補修が不可欠であるが、夜間作業が多く、特に国内では補修人材の確保が年々困難になっており、メンテナンスの省力化は重要な課題である。特に新幹線では、パンタグラフと接触する電車用電線(トロリ線)のさらなる高強度化と高耐摩耗性化が要求されている。一方、電線には、省エネルギーの観点から、さらなる高い電気伝導性も要求される。株式会社プロテリアルでは、これらの問題を解決するために高耐摩耗性と高電気伝導性を共に達成するため、錫とインジウムを微量かつ適正な量で添加した銅合金を開発した。それを連続鋳造圧延方式により線材として製造するプロセスを確立した。本トロリ線は、日本の鉄道用電線として社会基盤を支えるだけでなく、今後は新幹線を始めとする日本の高速鉄道を輸出するうえでも、必要となる技術である。。
2 特徴と成果
金属材料の高強度化は、通常、より多くの添加元素を加えることで達成される。一方、電気伝導性については、添加元素を多く含むほどそれが電子の移動を邪魔するため、電気抵抗が増加してしまう。このため、電気伝導と強度は通常はトレードオフの関係にあり、両者を同時に向上させることは困難である。株式会社プロテリアルでは、錫とインジウムを共に溶融銅中に微量添加することで、それらが銅中に溶けていた酸素と反応して酸化物を形成することで、添加元素の銅中への溶け込みを抑え高電気伝導を達成できること、および、これら酸化物が微細に分散することで分散強化と再結晶抑制による結晶粒微細化強化を達成できることを見出した。本トロリ線は、東海道新幹線、東北新幹線、上越新幹線、JR西日本の在来線などに使われ、張替え周期をより長くできることで電車設備の長寿命化と省電力化に大きく貢献し、日本の公共交通を支えている。
3 将来展望
鉄道におけるメンテナンスの省力化は、将来的に益々拍車がかかるものと推測され、それに応える本技術のニーズはさらに高まっていくと考えられる。
本技術は高速鉄道では必須であり、脱炭素社会への移行に向けて注目される日本の新幹線の輸出による国際的高速鉄道網整備にも貢献すると期待される。