第53回大河内記念技術賞
垂直磁気記録方式ハードディスク装置の開発と実用化
1 開発の背景と内容
両面磁気記録方式ハードディスク装置(HDD)では、記録密度を高めるほど記録磁化が互いに弱めあうという原理上の制約があり、約100ギガビット/平方インチ(Gb/in2)以上に記録密度を高めることは困難であった。1977年に岩崎俊一博士(東北大学名誉教授、東北工業大学学長)が発明した垂直磁気記録方式はこれを克服するものと期待されていた。複数の企業が垂直磁気記録方式を研究し、一時、両面磁気記録方式を凌駕する記録密度が達成されたことがあったが、逆に低密度で記録信号の減衰が発生し問題となっていた。このような背景のもとで東芝の技術者らは、問題の原因をいち早く明確にし、それを解決するコンセプトを打ち出して、世界初の垂直磁気記録方式HDDの量産製品化を導いた。
2 特徴と成果
本技術者らは、垂直磁気記録方式がその原理に見合う性能を発揮できなかった原因が、磁化転移中心では安定だが、中心から離れると磁化が減衰することにあることを見出した。1994年に磁気異方性を高め粒子が磁化を互いに支え合うことで安定な構造を実現するというコンセプトを打ち出し、具体的にはCoPtO系垂直磁気異方性メディアを創製し、2000年に安定な記録機構を開発し、優れた熱揺らぎ耐性と記録密度を検証した。このコンセプトおよびメディアを用いて、実装技術を開発しHDD装置として、外部磁場、熱揺らぎ、環境温度、ヘッド・メディア間隔変動などに対する耐性の早期検証を達成した。
当時として世界最高記録密度133Gb/in2をもつ世界初の垂直磁気記録方式1.8インチ40/80ギガバイトHDDを2005年6月に量産出荷した。半年後に海外の1社が、そして1年後に国内の1社が垂直磁気記録方式HDDを相次いで量産出荷した。量産出荷の口火を切った本業績の役割はきわめて大きい。2006年8月にはさらに記録密度を高め179Gb/in2の製品を出荷している。
東芝の垂直磁気記録方式HDDの生産実績は、2005年8月~2006年7月までの1年間で生産数量100万台、生産額約110億円、輸出数量約40万台である。
3 将来展望
本業績は、HDD業界全体が垂直磁気記録方式へ移行することを加速した。HDDの小型化によりビット単価の大幅低減、省エネ効果があり、今後3年以内に垂直磁気記録方式がHDD全体の95%になると予想される。今後のモバイル機器用HDDでは高密度記録性能と厳しい環境耐性が要求され、本業績は大きな意義をもつ。