第53回大河内記念生産賞
垂直磁気記録方式ハードディスク装置の実用化
1 開発の背景と内容
大容量化と低ビット価格化はハードディスク装置(以下、HDD)の記録密度増大を促し続けるが、従来の面内磁気記録方式は限界が見え、垂直磁気記録方式の適用が必須になっていた。この背景の下で日立製作所は垂直磁気記録方式の研究を、岩崎俊一博士(東北大学名誉教授、東北工業大学学長)の発明後間もない1980年に開始した。その後、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より委託を受けた技術研究組合超先端電子技術開発機構(ASET)による開発に加わり産学官で連携して研究を進めた。20年の基礎研究の末、2000年に当時世界最高の記録密度である1平方インチ当り52.5ギガビット(ギガは10億)を達成し、面内磁気記録方式を凌駕する可能性を世界中の技術者に認識させ、製品化に向けて本格的な開発が始まった。
垂直磁気記録方式は、原理的に高密度記録に適するが、実用化には製造プロセスおよび信頼性の点で高い障壁があった。2001年にHDDの試作を開始、2004年に事業部門である日立グローバルストレージテクノロジーズが商品化開発に加わり、2004年末から開始したフィールドテストで稼動実績を積むと共に、厳しい信頼性試験を繰り返し、徹底した改善を進めた。そして、2006年に垂直磁気記録方式を採用した2.5型HDDの量産化を達成した。
2 特徴と成果
量産化にあたっては、
1) 垂直磁気記録方式で生じる記録データ劣化および耐腐食性が信頼性上重要であることを認識し、それを克服する技術を微細加工プロセス、磁性材料、計測、シミュレーション、薄膜など保有技術の総力をあげて開発した。この点が第一の特徴である。
2) 垂直磁気記録方式の主要部品である媒体とヘッドを自社内で生産している点が第二の特徴である。
3) そして、最初の垂直磁気記録方式HDDの量産商品化を、市場規模が大きい2.5型の製品群で行なった点が第三の特徴である。
生産の観点からは、2.5型HDDが組み込まれるノートパソコンのメーカーを始めとする大口顧客へのOEM供給に向けて高い評価を獲得することが極めて需要である。同社では本格量産開始以来、世界中の大口顧客から製品納入認証を取得し、生産・出荷実績は平成18年12月までの累計で約400万台、ほぼ全量が同社の生産拠点であるタイ王国から海外主要市場への輸出である。
3 将来展望
本業績の垂直磁気記録方式は、記録密度が1平方インチ当り500から1000ギガビットまで実現可能と予測され、今後20~30年は使われる技術である。この技術による2.5型HDDの生産量は、今後大きく拡大することが期待されており、2.5型以外も3.5型や1.8型のHDDへも技術適用、およびそれによる生産量拡大も展望される。