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第54回大河内記念技術賞

家電用高機能クロメートフリー被覆鋼板の開発と量産化

 

1 開発の背景と内容
家電製品・OA機器用途の亜鉛めっき鋼板では、亜鉛の腐食抑制のために6価クロムを含むクロメート被覆鋼板が幅広く使用されてきた。近年、環境保全の高まりから、欧州では6価クロムを使用した電気電子機器の販売を禁止するEU規制(RoHS指令)が施行され、国内業界ではグリーン調達制度が導入されることになった。一方、6価クロム代替(クロメートフリー)被覆鋼板は1970年代から研究されてきたが、耐食性を確保するために皮膜の膜厚を厚くせざるを得ず、家電・OA機器用途に必要とされる導電性と耐食性の両立を実現して実用化した例はなかった。
耐食性と導電性を始めとして家電用途に最適な機能を有したクロメートフリー被覆鋼板を鉄鋼メーカーが供給できない場合、家電・OA機器メーカーには環境貢献へのイメージ低下だけでなく、EUへの製品輸出が不可能になる危機感があった。

 

2 特徴と成果
1) 薄膜でありながら高度の耐食性を発揮させるために、
1 高バリア性の変性エポキシ樹脂が酸素透過抑制に最も優れ、高度な耐食性を発現することを見出し、独自の「特殊キレート変性エポキシ樹脂」を開発するとともに、
2 皮膜損傷部において自発的に保護皮膜を形成する自己補修性能を有する「自己補修性発現無機化合物」を新規開発した。
これらを複合化した有機無機複合皮膜により世界で初めて極薄膜での耐食性付与に成功した。
2) その結果、クロメートフリー被覆鋼板では世界で初めて、相反する耐食性と導電性を両立させ、かつ、アルカリ脱脂後耐食性の付与に成功した。
3) 本開発品の工業化の結果、同社においては環境負荷物質削減(6価クロムの環境への流出を防止)、本鋼板を使用する家電・OA機器メーカーにおいては6価クロム規制に対応した製品を世界に先駆けて供給し、環境経営と国際競争力維持に貢献した。
本鋼板は、国内生産推定年間200万㌧の本用途向けクロメートフリー被覆鋼板の先駆的商品となり、本技術を基にクロメート被覆鋼板の全廃を実現した。また家電メーカーの製造海外移転に対応し、同社の海外表面処理鋼板製造拠点(タイ等)にも展開してクロメートフリー被覆鋼板を供給中である。
このように本技術は、工業的重要性と材料工学的意義が極めて大きい。

 

3 将来展望
本技術は、表面処理鋼板の学術的な進歩に貢献するとともに、鉄鋼産業における環境負荷物質を削減した環境調和型鋼板開発の先駆けとなった。本技術は、本鋼板を使用する家電・OA機器産業(複写機などのOA機器、洗濯機などの家電製品)の環境経営や国際競争力に今後も大きく貢献するとともに、鉄鋼業界のみならず産業界や社会全般の環境保全に寄与するものと期待される。