第55回大河内記念生産特賞
超々臨界圧石炭火力発電を実現させた
ステンレスボイラーチューブの開発
1 開発の背景と内容
世界的な電力需要増大の中で、石炭火力発電への依存は大きく、今後もその傾向は続くと予想され、課題である省資源・省エネルギーのためには、ボイラーで発生させる蒸気の高温・高圧化によるプラントの高効率化が必要である。1960年代後半に発電効率約41%の超臨界圧発電が登場して以降、ボイラーチューブの性能限界から更なる高温・高圧化は難しいとされていたが、今回、発電効率約43%の超々臨界圧発電プラント実現の鍵を握っていた鋼管材料とその量産技術を開発した。
2 特徴と成果
(1) 18%Cr含有鋼において高温強度と耐食性を同時実現させるため、
1) ニオブ炭化物の析出挙動を活用した特殊製造プロセスを考案し、管製造時に結晶粒の微細化(耐水蒸気酸化性に有効)に寄与するニオブ炭化物を微細析出させ、実ボイラーの使用時には高温強度に寄与するニオブ炭化物を微細析出させる新制御技術を開発し、更に
2) 銅の活用で高強度化した世界最高強度の「新18%Cr鋼」を開発した。
一方、腐食性が高い石炭も使用できるようにするため、耐高温腐食性に優れる25%Cr含有鋼において、
3) 窒素とニオブの複合添加による大幅な高強度化技術を開発し、25%Cr含有鋼で世界初のボイラーチューブとして「新25%Cr鋼」も開発した。
これらのシリーズ開発した革新材料は、実機での長時間性能実証と各国での規格登録により、初めて世界標準化にも成功した。
(2) 優れた性能は、従来に無い高温熱処理と高加工度冷間引抜き加工によって実現でき、
1) クロム炭化物複合肉盛送管ローラー等による熱処理炉の高性能化に加え、
2) 上下分割炉温制御による高精度熱処理技術、
3) 残留応力低減工具による高品質高加工度冷間引抜き加工技術等の量産技術を確立し、高能率、高歩留の製造を実現した。
(3) 新材料のシリーズ開発により高効率の超々臨界圧発電プラントを実現し、日本から世界へ普及させた。開発鋼管の採用が決定した超々臨界圧ボイラーの基数は、既に日本で22基、世界では191基に達するとともに、圧倒的な世界シェアを獲得し、ステンレスボイラーチューブの世界の供給基地になっている。日本22基分でのCO2削減量は456万トン/年になり京都議定書に基づく日本の削減目標の約6%に相当し、また、世界191基分のCO2削減量は6,636万トン/年で日本の削減目標の約90%に相当し、世界規模の環境保全にも大きく貢献している。
3 将来展望
超々臨界圧ボイラーにおいてグローバルスタンダードとなった開発鋼管は、現状の中国、欧州を主体とする市場に加え、今後超々臨界圧発電プラントの需要が拡大される米国やインド等でもCO2排出量の削減に貢献でき、学術的な進歩への貢献とともに社会的貢献も極めて大きい。更に開発した革新材料の諸技術は、現在開発が進められている次世代の先進超々臨界圧発電プラント用材料開発にも応用しており、更なる発展が期待される。