第55回大河内記念生産賞
低品位ニッケル酸化鉱からのニッケル・コバルトの回収技術開発
1 開発の背景と内容
ニッケルの高品位硫化鉱石は、次第に乏しくなり、現在残されている資源の多くが2%以下の酸化鉱である。鉱山では比較的品位の高い酸化鉱石の上にさらに少量の酸化ニッケルを含むラテライト鉱石が堆積しているため、高品位鉱を取るために多量の低品位ニッケル含有ラテライト鉱石が滞留している。この廃棄鉱石ならびに現在も中品位鉱を生産する際に発生する低品位鉱石を濃縮硫化し、ニッケルとコバルトの資源とする技術である。
低品位酸化鉱からニッケルを回収・濃縮するためには大量のエネルギーが必要である。エネルギー効率を高めること、ニッケル抽出率を最大にすることが経済性の担保のために必須である。また、連続操業を維持するために反応生成物を反応容器にスケールとして堆積させないこと、亜鉛を除去しつつニッケル収率を担保することが困難であった。
このプロセスでは、
(1) オートクレーブの蒸気フラッシュ制御を厳密に行なうことができるような設備を開発し、還流蒸気によるエネルギー回収と稼働率の確保の向上に成功した。
(2) 鉱石中のMgとAlの成分管理とオートクレーブ内の酸素ポテンシャル(空気吹き込み)と使用水質と硫酸濃度管理により高いニッケル抽出率の確保とスケール抑制に成功した。
(3) シーズ法を用い、生成物を循環させ、低温で比較的ゆっくり反応させることにより、容器表面で析出させることを抑制できるようになり、ニッケルの収率の向上にも効果があった。
(4) また、亜鉛の除去は硫化反応の最適化により対応し、これによって生成した硫化物を高純度電気ニッケルの原料として使用することが可能となった。
競争相手はいずれもこれらの課題を解決できず、この方法から撤退し、資源として低品位鉱石を利用して高純度電気ニッケルまで精製するプロセスはこのプロジェクトのみとなった。
2 特徴と成果
従来廃棄されて滞留していた廃鉱石からニッケルを回収する、極めて効率が高く、地球環境整備にも貢献できる優秀な技術である。世界的に1%台の品位のニッケル酸化鉱石を商業資源化できるプロセスはこれだけであり、さらに低品位にまで拡張する計画である。
さらに、2005年の操業開始からわずか2年半で、設計生産量である1万トンNi-t/年を達成し、現在まで3万トンを生産している。操業率もほぼ100%で、他社が70-80%と低迷していることと好対照である。
3 将来展望
本業績は、廃棄鉱石の資源化並びに今後の低品位鉱石の資源化に有効な技術であり、現地の環境整備にも大きな貢献がある極めて日本的な技術であると考える。
日本産業全体の資源確保に大きな影響がある技術である。