第55回大河内記念生産賞
コークス炉リフレッシュの実現を可能にした
極限環境下での診断・補修技術の開発
1 開発の背景と内容
わが国のコークス炉の多くは1970年頃に建設され、平均炉齢は36年に達する。その老朽化に伴い、例えば「押詰まり」と呼ぶ生産障害の発生頻度が高まり、コークス単位生産当りに要するエネルギーが増大する等の問題に直面していた。炭化室は、高さ6m×奥行き16m×幅0.45mと狭隘で、40年間以上継続して1000℃以上の高温にさらされる。従来は、炭化室壁に生じる損傷を目視確認し、手作業で溶射補修を行なってきたため、作業者の過酷な作業と時間が要求されていた。
本業績は、高温・狭隘なコークス炉内部の損傷診断と補修を、機械装置やデータ処理等に関する諸技術を結集して、高精度かつ効果的に短時間で自動的に行なうことのできる技術をシステムとして確立したものである。
2 特徴と成果
本業績は、
(1) 高温(1000℃以上)・狭隘(幅0.45m)・大面積(高さ6m、奥行き16m)のコークス炉炭化室壁全面の損傷状況を短時間(4分程度)で観察・診断する装置(炉壁全面の高精細撮像、凹凸形状測定、画像処理)と、
(2) 損傷により補修を要する部位の凹凸を1200℃の高温下で±0.5mmの精度で測定し、高い平滑精度(±5mm以内)で溶射補修する装置(狭幅多関節マニピュレータ、損傷形状計測、補修アルゴリズム、集束型溶射バーナー)の2つの巨大なシステムから成り、
(3) さらに、10tを超える装置を炭化室内に円滑に挿入するための回転式ダンパ機構や傾斜補正機構などの補機が付いている。
計画から10年以上をかけて数々の技術的困難を克服して実用化し、自社内の各製鉄所にすでに7機を設置済みで、2機製作中、1機計画中である。
本技術開発により、コークス炉寿命の大幅な延長を実現するとともに、大きな経済効果、省エネ効果、CO2削減を達成している。
3 将来展望
本業績は、高温・狭隘なコークス炉の極限環境下で適用できる精密診断技術・補修技術として確立され、すでに自社内の実機への導入が図られているが、さらにシステムの改善が進められている。
今後は、自社ばかりでなく他社へも広く普及し、作業員の過酷な労働からの解放、コークス炉寿命の延長、経済効果・省エネ・CO2削減が、さらに大規模に進展することが期待されている。