第56回大河内記念技術賞
広範囲キノロン系抗菌薬レボフロキサシンの研究開発
1 開発の背景と内容
既存の抗菌薬に対する耐性菌の出現が問題視され、耐性菌の少ない新規抗菌薬の出現が望まれていた。そのような中、1962年に開発された最初のキノロン系抗菌薬ナリジクス酸は、新規な作用機作を有し、耐性菌の出現頻度が低いという特徴がある反面、グラム陰性菌にしか活性を示さなかったため、より有用なニューキノロンの開発に向け複数の製薬会社がしのぎを削っていた。
キノロン研究の流れは酸性型と両性型に大別される。第一三共(旧・第一製薬)は当初、酸性型の開発を進めていたが、その失敗を契機に両性型へと方針転換し、1985年にオフロキサシンを上市した。そして、ラセミ体のオフロキサシンの光学分割に成功し、1993年のレボフロキサシンの上市へと繋げた。
2 特徴と成果
本業績の達成までにはいくつかのターニングポイントがあった。
(1) まず、当初有効性が期待された酸性型キノロンの開発を断念し、両性型キノロンへ方針転換したことがある。
(2) それまでに得られた構造活性相関の知見を反映させることで、オフロキサシンの上市に結び付いた。
(3) 次に、世界に先駆けオフロキサシンの光学分割に成功したことがある。オフロキサシンの特徴を把握しつつさらに研究を進め、ラセミ体のオフロキサシンの一方の光学活性体にラセミ体を凌駕する有効性と安全性を見出したことで、世界初の光学活性ニューキノロンの誕生となった。
秋田県に位置する生産現場においては、集中制御による高効率と安全性の確保が実現されている。さらに寒冷地のハンディキャップを克服する工夫がなされており、省エネルギー化にも繋がっている。
生産実績は、毎年約240㌧であり、キノロン系抗菌薬としてのシェアは国内外ともトップであり、年間売上げ約30億㌦は、抗菌薬としては世界一である。
3 将来展望
レボフロキサシンは、キノロン系抗菌薬として毎年2000万人、延べ20億人に処方され、世界各地で人類の健康と感染症医療に貢献してきた。そして、2009年には新たな投与法(500mgを1日1回投与)が承認された。本投与法は耐性菌の出現を抑制することから、医学上の意義は大きく、今後も継続した売上げが期待できる。また、これまでの研究で得られた有用な知見に基づき、さらに特徴あるキノロン開発が期待できる。
2008年には多剤耐性肺炎球菌とキノロン耐性大腸菌に有効なシタフロキサシンが国内で承認され、耐性菌由来の感染症治療への有用性が話題となっている。さらに、抗MRSAキノロン、抗結核キノロンの開発にも期待が集まっている。