第56回大河内記念技術賞
先端医療・情報通信機器用の
極細径・高強度・高導電率銅合金線の開発と製造技術
1 開発の背景と内容
本業績の希薄銅合金線は、繰り返しひずみを負荷しながら使われる用途、例えば医療用の超音波診断装置用プローブケーブル、ノート型パソコンや携帯電話などの電子機器用信号線などに多様なニーズがある。そこで、経済性のある連続鋳造圧延法で製造できる高強度、高導電率、高耐屈曲寿命、高耐熱性を兼ね備えた細サイズの希薄銅合金線を開発した。最先端技術として、精密な医療診断の際に鮮明な画像を獲得するため、そして多量の情報の伝送を実現するために、導体直径16μmの細径化が強く望まれ、素材と製造プロセス技術を確立した。そして極細同軸ケーブルと端末接続技術を合わせて、製品を実用化した。この技術は、先端情報通信機器用ケーブルや機械加工分野等、幅広い領域へ応用展開している。
2 特徴と成果
(1) 技術の特徴:
微量のインジウムと錫を含む導電率、屈曲寿命、耐熱性を備えた固溶強化型銅合金(NN合金)を開発、経済的な連続鋳造圧延法で安定量産を可能とした。実用レベルでは世界初のφ16μmの極細合金線を量産実用化し、ケーブル製品を実用化した。
(2) 社会性:
先端医療・情報通信機器の進歩をリードする不可欠な技術である。すなわち、超音波医療分野で精密診断予防医療に貢献、内視鏡のダウンサイズで患者の検査負担を軽減、曲げねじれ対応の先端情報通信機器の実現などにケーブルとして社会貢献した。
(3) 国際性:
開発したNN合金と製品ケーブルの競争力は高く、海外市場の合金製品を凌駕し、欧米医療トップメーカーに採用される等、世界市場で商品価値が高く評価された。
(4) 生産実績:
2008年製品売上は約35億円/年であり、着実に増加中である。本合金の製造は日立電線㈱でのみ製造している。合金線製造は国内のみであるが、ケーブルなどの製品生産はアジアや欧州など世界各地で実施している。
(5) 環境保全への配慮・成果:
この合金は一貫製造できるため、従来の高強度銅合金に比べて、製造時のCO2発生量を大幅に削減可能であり、地球環境保護に貢献している。
3 将来展望
高度医療・先端情報通信機器の小型化高密度化や進化に役立つ製品である。また、その優れた特徴である細さ、軽さ、屈曲性能から新しい用途が期待される。三次元的動画を描写する最先端の内視鏡や細径カテーテル内部の極細同軸ケーブルに使われる合金線直径はφ16μm以下になりつつあり、ポータブル、ウェアラブル医療機器の極細配線材料として医療・ヘルスケア分野への貢献が期待される。
医療以外の分野でも、既に開発した放電加工用電極線の進化を含めて耐熱性を利用した導体として将来性がある。今後は、合金の持つ優れた特徴である強度、屈曲特性、導電率、耐熱性、加工性を組み合わせながら特長をうまく引き出して、幅広く各産業界への貢献が期待される。