第56回大河内記念生産賞
ナノ表面制御による自動車用高機能鋼板の開発
1 開発の背景と内容
現在自動車用鋼板の主流となっている合金化溶融メッキ鋼板(Galvannealed Steel, GA)は、自動車製造におけるプレス成形、スポット溶接、塗装の各工程において優れた特性を発揮する高機能が求められている。このような観点から、鉄鋼各社では90年代後半より、プレス成形性を向上させたFe-Ni-O皮膜、無機P系皮膜などを開発してきたが、プレス成形能向上効果は十分でなく、またスポット溶接時に溶融した鉄がスパッタ状に付着することによる外観不良や塗装不良などのトラブルを回避できない点などについて更なる皮膜特性の改良が望まれてきた。
このような背景のもとで本業績は、① プレス成形性を格段に向上し、② スポット溶接性と塗装性を改善し、③ 環境負荷が小さく、④ 汎用設備による海外での製造が可能なグローバル性をも持ち合わせた革新的なGA鋼板製造技術の開発に成功した。
2 特徴と成果
優れたプレス成形性と溶接性を実現する表面改質層の設計において、
1)環境負荷物質フリーの観点から亜鉛系化合物を選択し、
2)溶接時の溶融金属の付着抑制の観点から皮膜の高融点化を図り、
3)プレス成形時に潤滑油を保持するための独自の構造設計を考え、
4)さらに皮膜自体のすべり変形抵抗低下の考え方を初めて導入した。
これらの設計思想に基づいて、独自の化学反応制御法によるナノレベルの亜鉛系化合物皮膜を形成する技術を確立した。この手法では、従来の皮膜形成方法である電解法やロールコーティング法と比較して初期設備投資を削減できるメリットが大きく、海外におけるGA鋼板生産への対応が容易である特徴を持つ。
本業績によるGA鋼板製品は、2005年の自動車メーカーによる採用開始から年々生産量を伸ばし、2008年にはJFEスチール東西製鉄所合わせて26万㌧に達し、2011年には40万㌧レベルが予想される。また、中国、ドイツでの技術供与を完了しており、アジアや欧州周辺諸国への供給体制も整っており、自動車メーカーの海外展開に多大な貢献をした。
3 将来展望
本業績は軟質鋼板のみならず、近年自動車軽量化の観点から採用が増加している高強度鋼板にも広く適用が可能であり、燃費の向上とCO2排出削減に貢献することで自動車業界の環境経営に適合することが期待できる。