第57回大河内記念生産特賞
高密度ビルドアップ配線板加工用
高速マイクロ穴あけレーザ加工機の開発と実用化
1 開発の背景と内容
携帯電話やパソコンなどの電子機器の高機能化、小型化の要求に対し、配線密度を格段に高める技術として、回路パターンを層状に積み重ね、層間を100μm程度の径の微細な導通穴(ビア穴)で接続するビルドアップ配線板がある。このビルドアップ配線板の穴あけ加工には機械式ドリルの適用は技術的に困難であり、レーザ加工による工法が1995年頃から実用化され、携帯電話の普及とともに利用が拡大してきた。携帯電話の高機能化につれて回路基板のビア穴の数は数万個から数十万個へと飛躍的に増加しており、高密度ビルドアップ配線板を低コストで生産するためには、レーザ加工の高速化が必須の課題となっていた。
本業績はこの課題に取り組んだ成果である。高速化を実現するために、高ピーク短パルス炭酸ガスレーザ発振器を開発するとともに、高速高精度レーザビーム位置決め技術とこれを実現するための機械要素と製造技術を開発し、毎秒4500個の穴加工を可能とする高速レーザ加工機を実現した。この高密度ビルドアップ配線板加工用高速マイクロ穴あけレーザ加工機により実装技術の高度化が進展し、電子産業の発展に貢献した。
2 特徴と成果
本加工機用の炭酸ガスレーザ発振器は、独自の高周波高出力電源と高速ガス流のレーザ発振技術を開発することで、他に類を見ない高ピーク短パルスレーザを出力できる特徴を有しており、従来のレーザ加工では難しかったガラスエポキシ材料や銅箔への熱影響の少ない良好なレーザ加工を可能としている。
光学系では、超軽量のレーザ反射ミラーを取り付けた小型特殊モータの高度なデジタル制御により高分解能で高速に駆動するガルバノスキャナシステムを開発するとともに、大面積fθレンズを内製化し、70mm×70mmの広いレーザの走査エリアでミクロンオーダの高速高精度レーザビーム位置決めを実現した。
これに加え、レーザビームを2分割し、1加工ヘッドで2穴を同時加工するマルチビーム光学系を開発し、さらに、それを2ヘッド化し4穴同時並列加工を可能とする機種も開発することにより、高い生産効率のレーザ加工機を実現した。これらの特徴により本加工機は世界で年間12億台と言われる携帯電話に搭載されるビルドアップ配線板の製造に広く使用されている。特に高機能なスマートフォンに搭載されるビルドアップ配線板は、10層積層された全層にレーザ穴あけ加工を行うエニイレイヤー配線板と呼ばれる回路基板が採用されており、その製造にも大きく貢献している。
3 将来展望
携帯電話やデジタルカメラに加えスマートフォンやタブレットPCの出現により、高密度ビルドアップ配線板の需要は今後さらに増加すると予想される。本業績の高速マイクロ穴あけレーザ加工機は、高密度実装の実現に不可欠な装置であり、今後さらに利用が拡大するものと言える。