第57回大河内記念生産賞
高炉長寿命化技術の開発
1 開発の背景と内容
高炉は製鉄所の事業規模を定める根幹の設備であり、設備寿命に達した高炉を再稼動するための設備の改修は長期の修理期間(2~4ヵ月)と多額(約300億円)の費用を要するため、経営に多大な負担を強いる重要課題である。1970年代~1980年代の高炉の寿命は5~10年程度であったが、1980年代後半以降において、この寿命を延長することは鉄鋼業界共通の重要課題であった。
本開発では、当初7年間稼働する予定で改修・再稼動した和歌山4号高炉を20年以上の寿命に延長することを目的とした。まず、従来、内部状態の把握が難しく、ブラックボックス視されていた巨大反応容器である高炉の内部状況を定量化するために、高炉数学モデルを開発し、ステーブ(炉体冷却金物)取替えに代表される設備補修に伴う非定常操業や炉底煉瓦の損耗を抑制する操業条件の設定を定量的に可能とした。さらに、高炉全設備にわたる設備診断・補修技術と設備保護操業技術を開発した。
2 特徴と成果
和歌山4号高炉は、2009年7月の操業停止まで、27年4ヵ月という連続稼働日世界一の記録を達成した。これにより、従来5~10年間に一回実施し、数百億円の支出を強いた高炉の改修が不要となった。また、開発された設備補修技術は、国内外他社にも技術供与され、他社高炉の寿命延長にも大きく貢献している。
開発された一連の数学モデル群は、実際の現象に即した忠実な物理モデル(例えば、高炉内状況を記述する3次元非定常モデルは、炉内の相変化を含む化学反応、流れ、伝熱挙動等を気・液・固相について解く)であり、実設備での計測データとの比較・検証により、長期間にわたってモデルの開発・改良が継続して行われており、信頼性が極めて高い。高炉に関するこのような数学モデル群は、世界に例を見ない。
3 将来展望
実操業の知見を吸収して精度・実用性を高め進化した高炉数学モデル群は、高操業効率と操業安定性を両立する設備設計を可能とし、その後の新設高炉の設計に適用され、鹿島1号、3号、および和歌山1号高炉は設備寿命25年以上として設計・建設されている。
さらに、その操業改善にも活用され、鹿島1, 3号高炉では2009年度国内トップの高効率操業を実現している。さらに、2013年に操業を開始する和歌山2号高炉等、今後、稼動する高炉にも適用されることにより、CO2排出量の削減を図ることができ、技術および学術的進歩のみならず社会的貢献も極めて大きい。