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第57回大河内記念生産賞

自動車の無段変速機用金属製ベルト材の製造方法の開発

 

1 開発の背景と内容
自動車の燃費向上とCO₂排出削減に関する要求が益々厳しくなりつつある状況において、従来のAT車に比べて7~15%燃費向上が可能とされる無段変速機の金属ベルトに使用するマルエージング鋼薄板の疲労寿命を大幅に改善するとともに、耐久性全般に対する信頼性の向上によりこれまで通常12枚の積層により構成していたベルトを9枚積層に減ずることも可能として生産性の向上を実現したものである。

 

2 特徴と成果
無段変速機はエレメントと呼ばれる薄い金属板を多数重ねたものを9~12枚重ねたマルエージング鋼薄板で構成されるベルトで左右から挟んだ構造のアッシーベルトを用い、入力側プーリと出力側プーリのそれぞれの幅を変化させることによりエレメントとプーリ中心からの距離が変化して変速比を自在に設定できる。ベルトに用いるマルエージング鋼は当然高い耐久性が必要とされ、108以上という高サイクル疲労寿命が要求される。マルエージング鋼の疲労寿命改善には非金属介在物であるTiNの大きさを大幅に低減する必要があることはよく知られているがその技術は確立していなかった。
本業績では2重溶解法を採用し、高周波による1次溶解とアーク溶解による2次再溶解の条件を制御することにより、従来の溶解法によって生成するTiNに比べて格段に小さくすることに成功した。すなわち、2重溶解法によってTiNのサイズを大幅に低減するためには1次溶解において晶出するTiNの大きさを極力低減しておき、2次溶解でTiNを粗大化させないように制御することが必要である。1次溶解の核発生サイトとして微量元素を添加することにより、現時点の工業生産レベルでは世界最小の10μm以下とすることに成功した。
本生産技術による無段変速機用金属ベルトの生産量は国内でおよそ年間300トンであり、現在わが国で製造される無段変速機用金属ベルトに対して100%供給している。今後特にアジアでさらなる普及が見込まれる海外市場への量産供給を開始するための環境も整いつつあり、無段変速機技術の国際競争力の強化が期待できる。

 

3 将来展望
今後、無段変速機搭載車は増加し続けて2016年には現状の1.5倍に達すると見込まれている。特に中国を含めたアジア地域ではCO₂排出削減のための燃費規制が厳しくなるため、無段変速機の採用が増加すると予測される。