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第59回大河内記念生産特賞

LSI原版製造用電子ビーム描画装置の開発と実用化

 

1 開発の背景と内容
LSI製造は40年間で回路線幅が1/1000になるという、驚異的な微細化・高集積化技術に支えられてきた。LSIは回路原版(マスク)上のパターンを露光装置で縮小投影することにより製造されるが、その根幹とも言えるマスクは電子ビーム(EB)描画装置を使用して製造される。従来主流であった点ビーム方式のEB描画装置では、微細化が進むとより細いビームの使用が必要となり、描画に要する時間が加速度的に増大し、マスク製造が生産性の点から破綻することが懸念されていた。このため、電子ビームを任意形状に成型し、パターンを一括で塗りつぶしていく面ビーム(VSB:可変成形ビーム)方式の採用を基軸とし、描画時間短縮と、同時に要求される高精度化への対応を両立したEB描画装置を開発し、実用化した。

 

2 特徴と成果
描画時間の短縮と高精度化を両立させる技術として、近接効果(基板からの散乱電子による露光量変動)を補正するための新規の補正公式を考案し、近接効果補正機能として搭載した。目標とする補正計算誤差0.5%以下を達成するために数日以上を要していた従来方式での計算時間を、描画動作(ビーム走査とステージ移動)と連動したリアルタイム計算が可能となる1時間以下にまで短縮することに成功した。描画時間を短縮するための技術として、一定時間に照射可能な電子ビーム量を向上させる高輝度電子源を開発した。電子源部材の改善と運転条件の最適化を進め、当初20A/cm2であったビーム電流密度を400A/cm2まで向上した。ビーム照射に要する時間は1/20に圧縮され、描画時間は大幅に短縮された。これらに代表される様々な技術開発を継続的に行い、年々厳しくなる高精度化、高生産性の要求に応えるEB描画装置を提供し続けてきた。1998年に回路寸法180~130nm世代に対応した量産初号機を出荷して以降、海外も含めた主要LSIメーカの大部分で導入され、2010年以降では量産用のマスク描画装置市場での占有率は90%以上を占めている。

 

3 将来展望
本技術は、先端LSI製造に不可欠なマスクの製造に使用されるEB描画装置に関わるもので、LSI産業の発展に直接貢献している。デジタル化とネットワーク化の進展に伴い、スマートフォン、データサーバー等に代表される先端LSIを搭載した電子機器の市場はさらに拡大している。マスクの製造を担うEB描画装置の重要性は益々高くなると共に、本業績の成果は社会や産業に大いに貢献・寄与することが期待される。