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第59回大河内記念生産賞

柔軟性を有する結晶性グラファイトによる
高熱伝導シートの開発と実用

 

1 開発の背景と内容
IT機器の高機能・高性能化、高集積化では、CPUからの発熱による局所高温場の発生を防止することが必須の課題である。特に携帯電話やスマートフォン、タブレット等の小型モバイル機器の熱設計においては、小さな限られたスペース内での熱除去のため、高い熱伝導性を有する軽量で薄い放熱部材が求められていた。本技術は、高分子フィルム(ポリイミド)を出発材料として、非常に高い熱伝導性を有する結晶性グラファイトを大面積で柔軟性のあるシートとして製造する技術を開発し、量産技術として完成させたものである。

 

2 特徴と成果
本技術の特徴は、①高分子フィルムを3000℃で熱処理することにより炭素原子を再結晶化させることで、大面積(B5サイズ程度)で面方向に極めて高い熱伝導性を持った結晶性グラファイトシートの作製に世界で初めて成功したこと、②作成時は固く脆いグラファイトシートに「なめし」工法(一種の圧延工法)を施すことにより、結晶性を維持したまま柔軟性を付与することに成功したこと、③ラミネート加工技術を開発し、グラファイトシートの柔軟性と高熱伝導性を維持したまま補強・絶縁を施してIT機器内で自由に貼り付けることを可能としたこと、④これらを統合して、材料受け入れから、材料切断、熱処理、なめしによる柔軟化、工程検査、シート切断、ラミネート加工、製品検査までの一連の製造工程を量産システムとして確立したことである。基礎技術は1988年に開発されたものであるが、ここ数年のスマートフォンやタブレットの急速な市場拡大により、2010年以降に本放熱シートの需要が急増し、2012年度では約140億円の売り上げを見込んでいる。すべて独自の技術開発により量産化までを完成させた功績は極めて大きい。

 

3 将来展望
今後は、さらに世界的な普及が見込まれるスマートフォンやタブレットへの需要が増大するとともに、他の様々な小型IT機器の高性能放熱部材にとどまらず電磁シールドとしての応用も拡大するものと思われる。基礎技術開発から25年が経過して産業応用において花開いた技術であり、基本特許はすでに切れているものの応用特許は押さえており、今後も新興工業国などによる追従を許さないようなさらなる技術の高度化を期待される。