第60回大河内記念生産特賞
航空機用炭素繊維複合材料の開発
1 開発の背景と内容
急速に進展するグローバリゼーションの基盤インフラを提供する航空機産業のもっとも重要な技術課題は機体軽量化であり、従来のアルミ、チタン等の金属材料を代替できる軽量高強度構造材料として、比強度、比弾性率の優れた炭素繊維をマトリックス樹脂と組み合わせた高靱性炭素繊維複合材料の開発、および信頼性の高い経済的生産システムの確立が不可欠となっていた。本開発では、高性能炭素繊維の大規模生産を、独自の前駆体ポリアクリロニトリル繊維の重合製造法および紡糸技術、繊維の耐炎化処理・炭素繊維化技術によって達成し、さらに、炭素繊維層間に熱可塑粒子を配置する新規マトリックス樹脂との複合化によって、航空機構造材料としての要求性能を満足する炭素繊維複合材料(高靭性プリプレグ)の開発に成功した。本技術により生産される高靭性プリプレグは、最新鋭民間航空機(B787)の主要構造材料として供給されている。
2 特徴と成果
本業績は、最新鋭民間航空機の基幹構造材料となる炭素繊維複合材料の大規模生産システムを、高性能炭素繊維の独自製造技術、および新規マトリックス樹脂による複合化技術の開発によって確立したものである。本製品は、B787の主翼、胴体、尾翼等の構造材料として独占的に採用され、全構造重量比50%に相当する35トン/機が使用されている。当機は各国の航空会社から900機を超える受注があり、2014年以降は年4000トン超の出荷が予想されている。
3 将来展望
各種合成繊維の製造によって培われた技術蓄積をふまえ開発された高性能炭素繊維複合材料は、我が国企業が世界市場の70%を占める高い技術競争力を誇る産業分野であり、自動車分野への展開を含め他用途への適用も進められていることから、本技術開発の波及効果は大きい。また我が国が産学連携によりこれまで先導してきた先端高分子材料開発の成功例としても高く評価される。