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第60回大河内記念賞

統合失調症治療薬アリピプラゾールの開発

 

1 開発の背景と内容
総合失調症は主として青年期に発症し、陽性症状及び陰性症状を特徴とする、人口の約1%が罹患する精神疾患の一つである。1950年代には、定型抗精神病薬 (TAP)が登場し、主としてドパミンD2受容体を(以後D2受容体と省略)遮断する事によって、ドパミン (DA) 神経系の過剰活動を抑え、急性期の陽性症状を改善した。しかしながら陰性症状には効果が無く、さらに、重大な副作用等の問題点を有していた。1990年代になってTAPの持ついくつかの問題点を克服した非定型抗精神病薬(AAP)が登場したが、AAPは、体重増加等の新たな問題点を有していた。このことからさらに治療効果が高くより副作用の少ない安全な薬剤の開発が望まれていた。本研究は、D2自己受容体では作動薬として作用し、後部位D2受容体ではDAの拮抗薬として作用する新規薬剤を開発する事を目的とした。このような新しい発想のもとアリピプラゾールを見出す事に成功した。

 

2 特徴と成果
本剤は、3,4-ジヒドロカルボスチリル骨格の7位と2,3-ジクロロフェニルピペラジンがブトキシリンカーで結合された従来の薬剤には無い新規構造を有する。従来の薬剤の殆どがD2受容体遮断薬であるのに対し、本剤は、D2受容体の部分作動薬である。陽性症状にはDA神経の過剰活動を抑制するD2受容体拮抗薬として、陰性症状にはDA神経の活動低下を賦活させるD2受容体作動薬として作用し、両症状の改善をもたらす既存の薬剤にはない新規な薬理作用を有する。本剤は、臨床において、陽性症状及び陰性症状を改善し、さらに安全性も極めて高く、現在、最初のそして唯一の第3世代の抗精神病薬として位置付けられている。本剤は、国際的にも認められ、米国、日本、欧州を始めとして世界70以上の国や地域で承認されている。全世界の売り上げは、米国の発売の年2002年以来急速に売り上げを伸ばし、2010年には3,926億円、2011年には4,116億円、2012年には4,385億円、今年度は5,000億円を突破する勢いである。

 

3 将来展望
本剤は、現存する抗精神病薬の中で、高い安全性プロファイルを有することから、長期間服用でき、患者の社会復帰に貢献することが期待されている。さらに、統合失調症だけでなく、日本では大うつ病、双極性障害の躁病、又、外国では統合失調症および双極性障害の小児、自閉症の興奮、のように、成人だけでなく小児、青少年等の様々な精神疾患の治療薬としての適用が拡大されつつある。