第61回大河内記念技術賞
気体燃料吹込みによるCO2排出量削減に適した製鉄原料製造技術
1 開発の背景と内容
地球温暖化対策として、CO2排出量の削減が喫緊の課題となっている。鉄鋼業は、我が国製造業からのCO2排出量の約5割を排出しており、その削減が強く求められている。製鉄原料である焼結鉱をコークスで還元する高炉法において、焼結鉱の強度と還元性を同時に改善することがCO2の発生源であるコークス使用量の削減につながり、CO2排出量削減の手段として有効である。しかし従来技術では、これらを同時に改善することは困難であった。本研究開発は、冶金学および燃焼工学に基づく新知見により、焼結工程において世界で初めて気体燃料を吹込む革新的技術を開発し、焼結鉱の強度と還元性を抜本的に改善することに成功したものである。
2 特徴と成果
本研究開発では、まず焼結鉱の鉱物組織に関する基礎研究を行った。その結果、「Calcium-Ferrite」組織の増加が、焼結鉱の強度と還元性の両立に有効であり、その生成温度域が1200~1400℃であることを見出し、冶金学的に重要な知見を得ることができた。さらに、焼結機内の反応温度を「Calcium-Ferrite」の生成温度域へ制御するための検討では、シミュレーション計算やラボ試験を積み重ねた結果、従来、コークスのみを熱源として使用していた焼結機において、気体燃料を吹き込むことで温度制御が可能にする本技術の原理を発見した。これらの基礎研究を経た後、安全で安定的な生産活動を可能とする工業化技術を確立し、2009年に世界初の実機商業設備への導入に成功した。本技術は、JFEスチール㈱所有の国内全ての焼結機(7機)に適用され、焼結鉱の強度、および還元速度の顕著な向上により、大幅なCO2排出量削減を達成した。さらに、酸性雨の原因となる硫黄・窒素の酸化物(SOx,NOx)の削減にも寄与している。これらの業績は、学術の進歩と産業の発展に大きく貢献したといえよう。
3 将来展望
本技術は、CO2排出量の大幅な削減効果とともに、多大な経済効果を得られることが、国内外で高く評価され、海外の鉄鋼メーカーからも技術導入の引き合いがあるなど、今後、地球環境問題の解決に向けて国際的にも十分貢献しうるものである。さらに、気体燃料とともに酸素を同時に吹き込むことで、本効果を拡大させる技術の開発にも成功し、技術の発展を続けている。また、近年、鉄鉱石資源の品質は悪化の一途を辿っているが、本技術は、このような原料資源の劣質化にも対応可能な重要な技術であり、資源に乏しい我が国の国益に貢献するものである。