第62回大河内記念技術賞
過活動膀胱治療剤ミラベグロンの創製
1 開発の背景と内容
日本を始めアジア・欧米諸国において人口構成の高齢化が顕著になりつつあり、それに伴って過活動膀胱による尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁等の下部尿路疾患が顕在化している。過活動膀胱の推定患者数は日本で数百万人、欧米で数千万人と非常に多い。既存薬では十分な治療効果が得られない、あるいは既存薬の副作用によって治療が継続できない、もしくは疾患認識がない過活動膀胱患者にも新たな治療選択枝を提供することは、患者自身も適切な治療薬を選択でき治療の動機付けを高め治療満足度の向上にもつながり、医療に大きく貢献する。本技術はヒトβ3 アドレナリン受容体作動薬として世界で唯一上市された医薬品であり、既存薬と作用機序が異なるため過活動膀胱治療剤として新たな選択枝を提供し、社会ニーズと合致し治療の質の向上、ひいては日本の製薬産業の発展に大きく貢献するものである。
2 特徴と成果
1989年にヒトβ3 アドレナリン受容体遺伝子配列が同定されたのを契機にヒトβ3 アドレナリン受容体作動薬は世界中の製薬会社により肥満・2型糖尿病を適応症と想定して盛んに研究された。アステラス製薬もβ3 アドレナリン受容体刺激活性の種差の克服及び選択性の向上をめざして創薬研究を行い、当該受容体に選択的かつ強力なアゴニスト活性を示すミラベグロンを見いだした。2型糖尿病患者に対してミラベグロンの臨床的な有効性は見いだせなかったが、同時に研究開発していた泌尿器領域において強力な膀胱弛緩作用及び蓄尿機能亢進作用を見出すことでリポジショニングに成功し、それにより、ムスカリン受容体拮抗薬で課題となっている副作用を回避した新規の過活動膀胱治療薬の創出につながり日本及び欧米での上市に至った。過活動膀胱治療剤として同社はムスカリン受容体括抗薬を先行して開発しており、ミラベグロンの上市によって過活動膀胱治療剤として2剤を有することになり、服用患者の増加により国内及び海外での販売実績の拡大を続けている。
3 将来展望
ミラベグロンは世界で初めて上市されたβ3 アドレナリン受容体作動薬であり、大いに評価できる。潜在的な過活動膀胱患者数が非常に多いことや同社が保有する作用機序の異なるムスカリン受容体括抗薬との併用・合剤に関する臨床開発も進められていることから、下部尿路疾患領域の医療に更なる貢献が期待できる。