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第62回大河内記念技術賞

溶接部が母材と同等の低温靭性を有する極寒冷地用電縫鋼管の開発

 

1 開発の背景と内容
電縫鋼管は他の鋼管に比べて生産性が高く、安価で寸法精度が良好などの優れた特徴があるが、極寒冷地パイプライン用鋼管には-50℃以下の極低温での靭性が求められるため、従来の電縫鋼管では溶接部の靭性に課題があるため適用できなかった。本研究開発は、電縫溶接部の均一加熱技術をはじめとする世界初の溶接技術と検査技術により、電縫鋼管の溶接部の靭性を全長に渡り母材と同等まで飛躍的に向上させて、極寒冷地でのパイプラインに適用可能な強靭性の電縫鋼管を世界で初めて実現したものである。

 

2 特徴と成果
本研究開発では、まず電縫溶接現象について数値解析と実験により基礎研究を行った。その結果、電縫溶接部の靭性低下の原因は板厚中央部の加熱不足に伴う酸化物の排出不足であることを見出した。この知見をもとに、板厚中央部を充分に加熱して靭性に影響を及ぼす酸化物を電縫溶接時に完全に排出することができる電縫溶接技術を確立した。さらに、低温靭性に影響を及ぼす酸化物の分布状態をオンラインで全長にわたり測定できる超音波検査技術を世界で初めて開発し、全長にわたる溶接品質保証を実現した。これらの研究を経た後、安定した工業化技術を確立し、2009年に世界初の実機商業設備を導入して、電縫溶接部の低温靭性を母材鋼管と同程度まで飛躍的に向上させることに成功した。開発鋼管の適用により、極寒冷地でのエネルギー開発を促進するとともに、累計156億円の施工コストの削減を達成している。本開発は、世界のエネルギー安定供給に資する優れた日本発の先進技術であり、学術の進歩と産業の発展に大きく貢献したといえる。

 

3 将来展望
本技術は、ガス・石油用パイプラインを安全かつ経済的・効率的に敷設できる点を国内外で高く評価されている。2009年以降、北米、東南アジア、北欧など世界的に採用されて、累計生産量は約48千トンに達している。敷設されたパイプラインの信頼性向上は、地球環境の保全に大いに貢献するものである。さらに、本鋼管は、エネルギー用途だけでなく、建築材料分野や機械構造分野などの様々な市場からも要望があり、波及を進めている。本技術は、鋼管分野における革新的技術であり、我が国の国益に大いに貢献するものと期待される。