第62回大河内記念生産賞
高周波数に対応した低伝送損失、高耐熱、高多層回路基板材料の開発
1 開発の背景と内容
インターネット上に流れるデータ量は加速度的に増加しており、2016年には全世界で年間1ゼタバイトを超えると予想されている。この大量のデータを扱うITインフラ用サーバーに用いられる電子回路基板には、信号転送を高速かつ大量に行いつつ機器を省エネかつコンパクトにすることが必要である。また、鉛フリーはんだに適合した、耐熱性が必要であり、これら諸条件を満たす基板材料が求められていた。
2 特徴と成果
数GHzを超える高周波数領域では、基板は電気信号伝送路の中心部をなす誘電体として働く。基板材料はガラスクロスと高分子の複合体であるが、この高分子材料には以下の諸特性が求められる:伝送速度向上のために低誘電率、伝送損失抑制のために低誘電正接、融点が高い鉛フリーはんだが使用可能な高耐熱性。これら諸特性を満足させるため、本開発では新規にポリフェニレンエーテルとトリアリルイソシアヌレートのポリマーアロイを開発し、特に誘電正接ではPTFEに比肩する性能を得た。さらに、反りや歪みの極めて少ない形状安定性、大量の並列回路を搭載するための高多層化、抵抗損失を抑えるために平滑化した銅箔の密着性の良い接着法などの実現のため、基板材料製造工程において多くの新技術を生産ラインに組み込むことにより、安定した大量生産を実現した。製品である銅張り積層板や接着シートは、使用者のニーズに沿った様々な形態で供給されており、非常に多様なスペックに迅速かつ個別の対応が可能である。このため、ここで開発された基板材料はハイエンドのサーバーやスーパーコンピュータに用いられ、国内外においてこれらの分野の圧倒的なトップシェアを獲得した。
3 将来展望
世界のデータトラヒックは年数割の割合で指数関数的に増加しており、この傾向はしばらく続くものと思われる。高速・大量データ処理技術はますます重要になるであろう。特に動作周波数がさらに高くなることに伴う誘電損失の増加と向き合う合成化学技術が求められている。本開発のさらなる技術的進展は今後も必要とされ続けるであろう。