第62回大河内記念賞
ホローファイバー型人工肺の開発と膜内製化による生産技術の確立
1 開発の背景と内容
1970年代、心臓手術の進歩・拡大に伴い肺の替わりに血液の酸素を交換する人工肺が普及していたが、当時主流だった気泡型人工肺は酸素ガスが血液に接触する構造のため、血液損傷や微小残留気泡という問題を残した。この問題を解決するために同社は世界初の多孔質ポリプロピレン・ホローファイバー(中空糸)型人工肺を開発した。この人工肺は安定したガス交換性能、低血液損傷、小型コンパクト構造、良好な操作性を有し、世界に広く普及し、現行の人工肺のほぼすべてがホローファイバー型になっている。
2 特徴と成果
このホローファイバーは当初、延伸開孔法により製造されていたが、孔径のばらつきが大きく、ピンホールにより血液循環中に血液リークが発生したため、同社はポリプロピレンと流動パラフィンとの相溶状態から相分離によってポリプロピレン多孔質膜を開発し、細孔の三次元構造化、孔径分布の均一化により、ガス交換性能の安定化、血液の低充填化、低血液損傷化、血液リークゼロの高信頼性を達成した。また、中空糸の捲縮、2糸巻・4糸巻など人工肺に合わせた糸仕様を可能にする生産技術を開発し、異物除去、性能安定化、高収率の維持、コストダウンなどにより、現在、国内第一位(シェア52%)、世界第二位(シェア25%)という高い競争力を有している。
3 将来展望
上述のように開発された技術と生産体制により同社の世界初のホローファイバー型人工肺は今やグローバルスタンダードとなり、同社は膜から人工肺まで一貫して開発・生産する世界で唯一のメーカーとして心臓外科手術の発展に大きく貢献している。今後も低充填量、血液適合性や安全性の向上などを実現する次世代人工肺の開発が期待されている。