第63回大河内記念技術賞
小形誘導モータの横流れ電流を低減する加工法の開発
1 開発の背景と内容
家電製品には構造が簡単で安価な誘導モータが幅広く用いられており、その一層の小型・高性能・低コスト化は社会的にもメーカの競争力上も重要である。誘導モータの損失には銅損、鉄損、機械損、漂遊負荷損があるが、鉄損と機械損の減少はほぼ限界に達しており、銅損や漂遊負荷損は高価な銅の使用量や回転子の無効電流低減のためのコスト増とのトレードオフの関係にある。これらの本質的な改善には、固定子と回転子の間のギャップの減少が最も有効である。より少ない電流で強い回転磁場を生成することで、銅損の減少による効率改善と銅量の減少によるコスト低下を同時に可能にする。しかし、単純にギャップを狭めるだけでは漂遊負荷損とそのばらつきが大幅に増加してしまい、誘導モータ本来の安定性と信頼性を大きく低下させる問題が発生するため、どのメーカにとっても踏み入ることが困難な壁となっていた。
2 特徴と成果
これに対して、表記の技術開発はこの問題に正攻法で取り組んだもので、漂遊負荷損の主要因が、ギャップ減少にともなって増大する回転磁場の多重極成分が回転子のアルミ導体と電磁鋼板コアの部分的接触による横流れ電流の形で漂遊負荷損を生じさせることを見いだし、これを低減する加工法として、回転子を回転軸の回りにねじり戻すことで、接触部に酸化膜を生成し絶縁性を安定的に維持する方法を、完全自動化ラインのタクト内で実現することに成功した。さらに、上記加工後の回転子の漂遊負荷損を電磁的に測定する法を開発し、オンライン全数検査として実装した。それらにより製造された製品は、他の国内外製品に比し効率は同等以上で銅の使用量が格段に少なくできたこと、銅量を増やす選択肢の下では効率を追加改善可能なこと、開発されたねじり戻し加工は他の誘導モータについても相応の有効性があることなどが示された。これらは、表記の技術開発が一般性を有し、誘導モータの大きな性能向上と生産性向上につながるものと言える。
3 将来展望
当該企業は換気扇用の誘導モータで長年国内のトップシェアを維持し、原材料や組み立てのコストを削減し効率を高めるという点で、高いレベルの開発を継続してきた。表記業績は、新たなひらめきと工夫のもとで、困難とされていた大きな壁を克服し、構造が簡単で安価で高信頼という誘導モータ本来の価値や国内外の市場での優位性を今後も維持することに貢献するものである。