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第63回大河内記念生産賞

超高清浄度軸受鋼の高生産性プロセスの開発

 

1 開発の背景と内容
軸受鋼は、自動車や新幹線等、動くもの全てに使われているベアリングの素材として使用され、厳しい環境下で長期間、高い信頼性が要求される鋼である。そのため、軸受鋼には高い清浄度が要求され、鋼中の非金属介在物を極限まで少なく、また、小さくする必要がある。この高品質を維持しながら、生産性を高めることは、非常に困難である。一方、今後も日本の製造業が国際競争力を維持・向上するためには、この矛盾を解決する必要がある。

 

2 特徴と成果
軸受鋼製造工程では、不必要な不純物元素の濃度を極限まで下げることにより高品質を確保することが一般的である。しかし、本開発では、表面活性作用のある硫黄に関しては、その特性を用いて最適化を行い、非金属介在物の浮上促進に利用した。また、取鍋(受鋼容器)に酸化鉄が残留し、精錬末期に酸素供給源として非金属介在物の生成を助長することを抑制すべく、取鍋内の酸化鉄残留を最小化し、溶鋼の末期酸化を防止することで清浄度の向上を図った。さらに、同様の目的のために、溶鋼の真空脱ガス設備の真空槽内に酸素供給源となる酸化物の侵入を阻止し、清浄度を向上した。このように、鋳造工程前の徹底的な見直しを行い、溶鋼中の非金属介在物について極限まで少なく、小さくした。その結果、非常に清浄度の高い溶鋼を造り込むことができ、連続鋳造時、溶鋼を注入する浸漬ノズル内面が酸化物の付着により閉塞することを防止することにも成功した。また、浸漬ノズル外面は時間とともにメニスカス位置で溶損していくが、その位置を操業中に制御することにより長寿命化を図ることにも成功し、繰り返し連続鋳造を可能にした。さらにこの連続鋳造機は大断面完全垂直型で、わずかに残留した介在物を無害化することが可能である。これらの総合的な技術開発により、超高清浄度鋼である軸受鋼の溶解精錬-凝固プロセスを、100回連続で取鍋を供給する操業を可能とした。通常、同種の鋼を生産しているケースが数回であることを考えるときわめて大きな生産性の向上につながっていると言える。

 

3 将来展望
本技術により、当該企業の市場競争力はきわめて強いものになっており、現在の国内軸受鋼市場のシェアは約40%である。今後も高い生産性を確保しながら事業の展開が可能であると考えられる。