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第63回大河内記念賞

多値NAND型フラッシュメモリ微細化を
実現した干渉抑制技術

 

1 開発の背景と内容
㈱東芝が発明したNAND型フラッシュメモリは、高速応答が可能な不揮発性半導体メモリで、微細化及び多値化により低価格/大容量化が実現できた。結果として、持ち運びに便利なメモリカード、USBメモリ、コンピュータの補助記憶装置であるハードディスクに代わりつつあるSSD、スマートフォンメモリなど様々な分野で広く使用されている。しかし、70nm世代以降の微細化の結果、隣接するセルに蓄積された電荷の干渉が無視できなくなり、この干渉を可能な限り排除する必要が生じた。本業績は、フラッグセル方式と3ステップ電荷注入方式により隣接セルの電荷の影響を補償して書き込む方式を発案し、実現したものである。

 

2 特徴と成果
隣接効果は、隣接セルに蓄えられる電荷が大きいほど強く影響される。この影響は、実際にセルの浮遊Siゲートに蓄えられた電荷より多い電荷に相当する出力信号となって現れる。多値セルでは、このわずかな出力信号の違いが誤りとなりやすい。特に、セルサイズが小さくなるほど隣接効果の影響は大きくなる。そのため、受賞者らは、4値の場合には、アクセス単位ごとに、上位ビットの書き込みの有無の情報をフラッグセルに書き込み、その内容で読み出すシークエンスを変更する方式を、また、8値以上の場合には、正しい注入電荷が、最大蓄積電荷の半分、あるいはそれ以上の電荷注入が要求されるセルに半分弱の電荷を蓄積させ(第1ステップ)。その後、各セルの出力信号を検出しながらセルに必要な電荷を追加で注入する(第2ステップ)。更に、再度、各セルの出力信号を評価し、その結果に応じて3回目の電荷注入を精細に行う(第3ステップ)3ステップ電荷注入方式を提案し、これらの方式を実施するために必要な制御回路を実現したものである。本方式の基本概念は、2007年、70nmデザインルールのもと、16Gb,16値(4ビット)NAND型フラッシュメモリの試作発表が最初で、2009年43nmルール64Gb、16値を発表し、IEEE ISSCC Awardを受賞するなど海外でも高く評価された。現在、世界市場でも主流の128Gb、4/8値NAND型フラッシュメモリは、東芝のみでなく、ほとんどの製造者が当該書き込み方式を採用していると考えられ、スマートフォンをはじめ、様々なレベルでのコンピュータ、電子機器の発展に強く貢献している。

 

3 将来展望
NAND型フラッシュメモリの市場ニーズは、現在、留まるところを知らぬ状態で広がっている。特に、これからますます利用が増えると予想されるIOTにおいても、更なる市場の広がりが予想され、ビット密度の向上も必須と考えられる。当然、微細化、多層化も進むと考えられ、隣接セルの影響もさらに増加し、本方式が重要になる。既に試作されている16値NANDフラッシュメモリの市場への速やかな登場も期待される。