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第64回大河内記念生産賞

同時5軸制御切削技術の高速・高精度化による自動車用インペラの量産技術開発

 

1 開発の背景と内容
持続社会の構築のため、燃費向上による自動車の二酸化炭素排出量の低減が急務であり、21世紀に入り、過給機によるエンジンのダウンサイジングが、ディーゼルエンジンを中心に急速に普及してきた。近年は、乗用車用ターボエンジンの高性能化に伴い、鋳造インペラに代わる薄肉軽量で高精度、高品位な削り出しインペラの量産が不可欠となったが、量産体制の構築と鋳造品に匹敵するコストの低減が大きな課題であった。しかし、従来のインペラの切削加工技術は、大型の同時5軸制御マシニングセンターを使用し、多種少量生産の高付加価値部品として、長時間かけ加工するものであり、コンパクトカーを含む乗用車用の比較的廉価な小型インペラの量産を高速切削加工技術により実現するためには、新たなコンセプトに基づく、統合化された5軸加工技術、検査技術の開発が強く求められていた。

 

2 特徴と成果
上記の課題や要求に対し、本技術では、乗用車用インペラ専用同時5軸制御マシニングセンターの開発を繰り返し、最終的に、高速主軸を搭載した小型のトラニオン型同時5軸制御加工機とコンパクトな切削加工ラインを実現し、これにより生産量の飛躍的な増大とコスト低減を可能とした。工具軌跡の生成技術に関しては、工具姿勢の急激な変化を抑制するためのCAM自動編集機能を自社開発し、極めて滑らかに、かつ高品位にインペラの翼面を加工する技術を確立した。また、トラブルのない高速切削を実現するため、高性能工具の開発と内製を進めることにより他社との加工技術の差別化を図った。さらに、自動計測技術や自動動的バランス修正技術を開発し、セル化して加工ラインと統合化することにより、従来想定できなかった高精度、高品位の削り出しインペラの大量生産技術を実現し、2016年の生産実績で年産454万個と顧客クレームゼロを達成している。本技術による削り出しインペラは、極めて生産量の多い自動車部品であるにも関わらず世界的に大きなシェアを占めており、産業的・社会的貢献度は大きい。

 

3 将来展望
当該企業の同時5軸制御加工技術は、付加価値の高いジェットエンジン等の部品切削で培われてきたものであるが、この技術を究極まで追求することにより、困難と思われてきた大量生産品への適用を実現し、革新的な技術の進歩とパラダイムシフトをもたらした。本技術は、急速に伸び続ける削り出しインペラの需要に対応するのは勿論のこと、小型同時5軸制御加工機の普及と新たな部品加工技術の拡大に今後も貢献するものである。