第64回大河内記念賞
高尿酸血症・痛風治療薬フェブキソスタットの創製
1 開発の背景と内容
高尿酸血症・痛風は食生活の欧米化により日本でも急激に患者数が増加し、また発症の若年化により国民病の様相を呈している。その治療には、尿酸の血中濃度を低減させる薬剤、特に尿酸生成に関わる酵素であるキサンチンオキシダーゼ(XOR)を阻害する薬が治療に用いられるが、1960年代に上市された古い既存薬(アロプリノール)のみが事実上用いられてきた。その後、1970−1980年代に多数の研究がなされたが上市には至らず、依然治療の選択肢が限られたままであった。受賞者らはその要因を解析し、代謝活性化を受けず、薬剤そのものが強力な酵素阻害を示す物質が必要であると推定した。また腎排泄性や副作用を回避するためにプリン塩基類似構造からの脱却に向け鋭意努力し、既存薬の1000倍の活性のある新規キサンチンオキシダーゼ阻害薬「フェブキソスタット」に到達した。このような粘り強い研究が、高尿酸血症・痛風治療薬として40年ぶりの新薬上市につながった。服用量の大幅な低減と1日1回の服用は患者に大きなメリットをもたらし、フェブキソスタットは国内外で高尿酸血症・痛風治療の第一選択薬になり治療に大きく貢献している。
2 特徴と成果
既存薬は1日2回又は3回、高用量の服用が必要であるが、時に治療効果は十分でない場合もあり、また腎機能低下患者において用量調節が必要になるため、医療現場では新薬が永く待望されていた。受賞者らは既存薬や後続開発品の徹底的な解析、薬効評価法の確立及び既存薬等の化学構造に捉われない発想の転換を行うことにより、プリン塩基類似構造から脱却した、1日1回の服薬で強力かつ安定した尿酸低下作用をもち、更に腎排泄性を抑えて中等度までの腎機能低下患者にも用量の調整なく使えるフェブキソスタットを創製した。この過程は決して順風満帆なものではなく、予期せぬ毒性リスクの回避をはじめ様々な困難を乗り越えた研究開発の末、高尿酸血症・痛風治療薬の新薬として患者の元に届けられた。また、処方の増加に呼応して製造工程の改良や画期的な新規製造法の研究も継続的に行われ安定供給を確保している。現在、世界100カ国以上に導出や販売契約が締結され国外においても販売実績を大きく伸ばしている。
3 将来展望
2016年にフェブキソスタットは「がん化学療法に伴う髙尿酸血症」への効能追加がなされた。フェブキソスタットの出現は高尿酸血症・痛風の治療現場を一変させたとまで言われている。国内外で高尿酸血症・痛風治療の第一選択薬として長期的に渡って医療現場で使用される医薬品になることが期待され、人類の健康に大きく貢献し続けるであろう。