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第65回大河内記念技術賞

高強度ジルコニアの工業化と市場確立

 

1 開発の背景と内容
結晶相変態により高強度・高靭性を示す部分安定化ジルコニアは1980年代に実用化されたが、当時は適切な粉末製造技術が確立していなかったため品質安定化と量産が困難な状況であり、また高温大気や熱水中では特性劣化が著しく常温使用に限られたものであった。本業績は、ジルコニア微粒子の形成機構を解明し、それに基づいて微粒子構造と添加物の均一分布の制御技術および量産プロセスを開発したものである。これにより、高強度・高靭性に加えて劣化を著しく抑制した長期特性安定性をもつジルコニアセラミックスの製造が可能となり、ジルコニアの用途拡大と市場確立に大きく貢献した。

 

2 特徴と成果
先ず、加水分解法によるジルコニア微粒子の形成機構の解明を進め、その全容を明らかにした。それを基に、微粒子構造と添加物分布を均一に制御した粉体製造技術を確立した。これにより、組成・粒子サイズが均質で安定な正方晶単一相の焼結体となるジルコニア微粒子粉体の製造に成功し、これを用いて特性劣化が著しく抑制された高耐久性ジルコニアセラミックスを実現した。さらに、多結晶体における新たな粒界偏析誘起相変態と粒子成長機構を発見・公開し、ジルコニアセラミックスの学術的深化に寄与している。本業績による粉体は、品質安定性に優れるため研究開発用のジルコニア標準粉体として認知されるようになっている。製造プロセスにおいては、連続的粒子生成工程と精製濃縮工程等の導入により、効率的かつ安定品質の生産工程を確立し、トンスケールの量産化を実現した。さらに、それまでの粉砕用ボール・固体電解質材料等に加えて、審美性に優れた歯科材料や装飾品など様々な用途への利用を進め、高強度ジルコニアの市場形成を進展させた。その結果、2017年には年100億円を超える販売実績、および80%に至る市場占有率を挙げ、産業発展に貢献している。

 

3 将来展望
本業績により開発された粉体から製造されるジルコニア多結晶体は、従来よりも高温でも高強度・高靭性特性が劣化なく維持されるため、常温使用の制限がなくなっている。また、多様な形状の製品製造や広範囲な色調・透光性の制御も可能である。このため、高強度材料としての用途に加えて、光学機器や審美性に優れた装飾品への用途、さらには触感性に優れた携帯機器部材など、広範な範囲への利用の展開が進むと期待される。