第65回大河内記念賞
生理学的情報を高画質で取得できるオープン型MRI装置の開発
1 開発の背景と内容
生体内の状態を任意断面で、放射線被曝することなく可視化するという優れた特徴により、磁気共鳴撮像(MRI)装置は医療用画像診断装置として上可欠なものとなっている。従来は数テスラという静磁界中に被検者を配置するために閉鎖型(トンネル型)の構造が採用されている。そのため、検査装置に入ることが困難な閉所恐怖症や体格の大きな被検者にも適用可能となる開放型のMRI装置が求められてきた。受賞業績は、垂直静磁界中の被検者から高精度でMRI信号を得る手法を開発し、開放型高画質MRI装置を低コストで実現したものである。
2 特徴と成果
MRI装置は、水素原子核スピンの向きを揃える静磁界発生部・位置情報を付与する傾斜磁界発生部・共鳴信号を得るための高周波磁界送受信部・画像処理部から構成される。開放型MRI装置では垂直静磁界となることから、信号・雑音源の空間的分離能力の高い高感度ソレノイド型検出コイルが使用可能となる一方で、高周波磁界に対して解析解が得られないという非軸対称性の問題を扱う必要が生じる。受賞者はモーメント法を援用することで複雑な形状に対応できる3次元近距離電磁界シミュレーション手法を開発し、3D-CADシステムと統合することで様々な生体部位形状に最適化した高周波磁界励磁コイル(RFコイル)を短期間で効率的に設計・生産する技術を確立した。並行してこのRFコイルからのMRI信号との連携が可能な画像化プロセス高速シミュレータを開発し、生体由来ノイズの影響を最小化することで微小な生理情報を検知可能とするなど、従来の閉鎖型装置と比較して、低磁場で低い運転コストとなる永久磁石型での高画質撮像を可能とした。さらに低騒音化パルス列波形の設計、診断部位・診断機能に合わせた撮像条件の最適化などにより、開発されたオープン型MRI装置の市場占有率は国内新規設置100%(2017年度:82台)で、全世界出荷実績は累計6780台を超え、高い評価を得ている。
3 将来展望
被験者の負担軽減、設計の効率化による低コスト化に加えて、永久磁石型での高画質撮像装置は運用コスト削減にもつながることから大病院のみでなく一般の開業医への導入も可能となった。また開放型装置へのニーズの高い北米を中心にさらなる国際展開が期待されている。