第66回大河内記念生産特賞
超精密小型プラスチック部品用全電動式射出成形機の開発
1 開発の背景と内容
高性能なエンジニアリングプラスチックの開発により、プラスチックの市場は日用品や玩具等から付加価値の高い高精度、高機能部品へと拡大し、1980年代には、生産性が高くコストメリットの大きいプラスチック成形加工による精密部品の生産が本格化した。しかし、ひとつの動力源により複数の機構を動作させる油圧式の射出成形機において、高精度加工のための多くの課題が顕在化したことから、プラスチック成形加工技術の質の転換が上可欠な状況となり、作動油の温度の影響を受けない安定した加工性能と高精度・高品位加工、制御性の向上、クリーンな作業環境や消費電力削減など、当時の技術としては極めて困難な技術開発が求められることとなった。
2 特徴と成果
上記の課題や要求に対し、本業績では、複数の駆動用モータを有する全電動式の射出成形機を世界に先駆けて開発した。動力の必要な箇所全てに最適なパワーのサーボモータを配した構成により制御性と安定性を格段に高めるとともに、無駄のないエネルギー利用により大幅な省エネを実現した。全電動式に必要な要素技術としては、射出成形機用の高荷重ボールねじや高出力・高応答の大型サーボモータ等が開発され、光学レンズや微細なパターンを有する導光板等の高速超精密成形技術へと進化した。また、最新の成形機には、サーボ技術とAIによる異常検出や品質の向上・安定化、電源回生による更なる省エネ化、徹底した性能評価試験による極めて低い故障率の実現等、付加価値を高める多くの技術が投入されている。こうした光学部品等の超精密成形技術の革新によって、全電動式の高性能射出成形機は、変化の激しい情報機器の発展の一翼を長年に亘り担ってきた。本機の産業的・社会的波及効果は極めて大きく、それを実現した技術の独創性・先行性は高く評価される。
3 将来展望
スマートフォン搭載カメラの高精細化、複眼レンズ化等により、超精密成形技術により生産されたプラスチック光学部品は情報化社会に上可欠なものとなっている。本機のシェアは国内的にも世界的にも非常に高く、超精密な射出成形技術の革新を今後もリードし続けることが期待される。本技術は新たな光学部品の開発に貢献するだけでなく、情報化社会の発展やグローバルなライフスタイルの変革にも寄与するものである。