第66回大河内記念生産賞
工場環境と製品機能の向上を両立したアルミ鋳造技術の開発
1 開発の背景と内容
アルミ鋳造産業において、鋳造時に用いる中子の生産技術が製品機能を左右する重要なコア技術である。しかし、これまでは中子の作製には主に有機バインダーが用いられており、大量に発生する煙、臭気、CO2などが工場環境を悪化させる要因となっていた。そこで、バインダーを無機バインダーに代えて、環境改善に取り組む技術開発が自動車会社を中心に広く行われてきたが、型枠に充填しにくい、排砂が困難である、鋳物砂が再利用できず大量の破棄砂が発生するなど、技術的に多くの困難な課題があり実現できなかった。そのような背景の下、各自動車会社やアルミ鋳造関連会社では、本問題を克朊すべく中子生産技術の改良に取り組んできた。
2 特徴と成果
トヨタ自動車㈱と新東工業㈱では、いち早くこの課題に取り組み、材料の選定(砂の種類、水ガラス、界面活性剤、離型剤)を系統的な実験と学術的検討を併用して行うとともに、造型工法、砂再利用工法、砂再生設備などについても開発し、工場環境と製品機能の向上を両立した新たなアルミ鋳造技術システムを構築した。具体的には、①煙、臭気、CO2排出問題の解決、②無機バインダーを用いて従来手法(有機バインダー使用)を上回る巧緻造型性の実現、③無機バインダー砂での再生利用の実現、など画期的なアルミ鋳造量産システムを構築することに成功している。本技術開発により、アルミ鋳造産業の工場環境が抜本的に改善されるとともに、本分野の材料選定や界面化学の観点からの理解が深まったことも意義深い。
3 将来展望
本開発技術により、アルミ鋳造時における臭気濃度を1/100以下にすることに成功し、臭気対策用設備投資も20%以上削減した。また、破棄砂を無くすことによりCO2排出を従来の半分以下にし、良好な巧緻造型性を利用してシリンダーヘッドの複雑な網目状水路を実現することで、熱効率41%の新型エンジンの量産に大きく寄与している。これら一連の開発技術は将来さらに発展することが期待できる。実際、本技術を用いた国内生産実績も2018年において140万台に達しており、生産技術の普及にも大きく貢献している。本開発技術を応用することで、世界各国のアルミ鋳造産業の工場環境が抜本的に改善されるとともに生産効率も大幅に向上することが期待できる。