第66回大河内記念生産賞
衝突安全性を確保する船体用高延性厚鋼板製造技術の開発
1 開発の背景と内容
船舶の衝突事故は、荷油漏れなどを起こし、深刻な環境汚染を招く。特に巨大タンカーの事故はその影響は極めて大きい。これまで船舶の衝突安全性を確保するために、船側構造の二重化が規則化されてきたが、これに加えて、外殻鋼板の延性を大きくすれば、同じ衝突エネルギーを受けても、き裂が生じず、浸水や沈没の危険性を低減し、結果的に乗員を保護し、油濁も防止することができる。また、各国の港湾では衝突防止のため、航行速度を最大12ノットに制限している。従来の船体用厚鋼板の1.5倊以上の伸びを確保することができれば航行速度12ノットでもこの目標を達成できることを見出し、船体用高延性厚鋼板の開発と製造技術の確立を目指した。
2 特徴と成果
本技術開発の特徴は、高延性鋼板を大量生産するシステムを開発したことである。まず、第一に延性阻害要因である硫化物、介在物の生成を極限まで低減させることを目指した。製鋼プロセスでは、開発した高効率製鋼プロセス(2014年大河内賞受賞業績)に加えて、二次精錬で脱硫を効率よく行う独自技術を適用し、目標を達成している。第二に、延性に有効な金属組織を極限まで追求することを目指した。圧延時の熱履歴の精密制御により、微細な金属組織を実現することが極めて重要な効果を持つことを冶金学的に解明した。さらに、加速冷却時に、従来の水冷技術では実現が困難なため、スプレーノズルの配置設計、鋼板への水流の衝突速度の管理を抜本的に改善して、鋼板の精密な温度管理を圧延工程全般で実現することで、鋼板全体に冶金学的効果を達成している。現在、操業は安定して高い生産性を維持できている。
3 将来展望
今後ますます、船舶の大型化が進み、衝突安全性のみならず、座礁に対する安全性の確保も喫緊の課題であり、高延性厚鋼板の需要拡大が見込まれる。衝突安全性能の高い船舶への税制施策も施行され、保険料率低減などのビジネスモデルも検討されており、市場の拡大が見込まれる。生産技術は確立しており、市場拡大に伴い、生産量もさらに増えていくと予想される。