第68回大河内記念技術賞
国土強靭化に資する環境対応型高耐震性高強度鋼板の開発
1 開発の背景と内容
SDGsの課題でもある国土強靭化、さらに、日本の限られた国土を有効に利用し、快適で広い住居空間を得るためにも、超高層構造物を支える柱の数を減らし、かつ、大震災にも耐えうる十分な耐震性を担保する、高耐震性高強度鋼板の重要性が増している。このような高耐震性高強度鋼板に求められる性能としては、超高層化のために高強度であるとともに、比較的低い力で大きく変形することで地震のエネルギーを吸収し、かつ建物を倒壊させないために壊れ難く高靭性であることが必要となる。さらに、鋼板を超高層構造物の柱として利用するための溶接では、高効率で大きな省力化ができる超大入熱溶接の実現と、その溶接部の強靭化も必要となる。加えて、ゼロカーボン化の推進のための鉄鋼製造時や建設時のCO2削減、環境問題のための省資源化、工業としての低価格化など、非常に多くの課題がある。本業績は、これら全てに対応する環境対応型高耐震性高強度鋼板の開発技術である。
2 特徴と成果
耐震性能の高い鋼板としては、比較的低い降伏応力としながら、高い延性と高い強度を併せ持つという、通常は相反する性質を兼ね備える必要がある。通常、高強度化のためには、価格の高い添加元素を多く添加する。しかし、この場合は、降伏応力も上昇し、延性が低下する上、資源的にも価格的にも問題となる。これらを解決するために、精密な成分設計技術と、厳密な温度管理と急速冷却を可能とした高度な熱間圧延*自在冷却制御プロセスを開発した。そして、添加元素の量は低く押さえた低合金としながらも、微細フェライト/やベイナイト/および微細マルテンサイトを活用した、軟質相と硬質相からなる複相組織制御を実現し、高強度と高延性を両立しつつ、省資源化やCO2削減をなし得ている。さらに、板厚が100mmにもなる鋼板を溶接後も超高層ビルを支える柱として十分な溶接部の靭性を持たせるために、TiN、Ca系介在物、微量元素のSiやPの制御に加え、溶接金属からのボロン拡散技術などを組み合わせたマイクロアロイング技術の確立に成功し、超大入熱溶接と溶接部の高靭化を実現している。そして、本技術により、実際に著吊なビルや複合商業施設が多く建造され、それらは地域の防災施設にもなっており、社会に大きく貢献している。
3 将来展望
以上の開発技術は、美しく人の憩いとなる場所、都市のランドマークであり、観光地とも防災施設ともなる超高層構造物の建造を実現し、確実に都市と社会の発展と安全に結びついていることは高く評価できる。現在、開発鋼板の販売実績は40万トンに達し、多くの著吊な施設が建造されている。現状、主に日本国内での再開発プロジェクト等の超高層建造物に適用されているが、近い将来に、アメリカ西海岸や台湾など、日本同様に地震が問題となる諸外国への展開も期待され、国際的にも多くの都市の再開発と人々の安全性の向上に大きく貢献することが期待される。