第69回大河内記念技術賞
複雑な磁場分布を実現した超電導磁石の3次元自動巻線技術
東芝エネルギーシステムズ株式会社 折笠 朝文、他4名
(業績概要)
1.「開発の背景と内容」
超電導磁石は広い空間に強力な磁場を発生することが可能で、先端基礎研究から産業・医療応用まで広く使われている。応用範囲の拡大にともない、従来のコイル巻線技術では実現できない複雑で精密な磁場分布を形成可能な超電導コイルの必要性が増している。本業績は巻枠上に超電導線を磁場設計計算通りに配置し接着しながらコイルを形成することで誤差 0.1%以下の磁場分布を実現する3次元自動巻線技術の開発により、重粒子線がん治療用超電導小型回転ガントリーの実現、および単結晶引上げ用超電導磁石の低コスト化を実現したものである。
2.「特徴と成果」
本業績は三つの技術、すなわち、数千本の超電導線で構成される3次元コイルが形成する磁場分布について高精度計算コードを用いて、要求される磁場分布を実現する最適化計算により超電導線のコイル曲面上における3次元空間配置データを作成する技術、それに従って位置制御される6軸同時巻線機に搭載された超電導線溶着ヘッドにより対象コイル面に超電導線を配置していく技術、極低温に耐え3次元コイルを形成するのに適した接着樹脂の開発、それらの統
合により実現したものである。磁場形成の自由度により、コイルの小型化や湾曲面上へのコイル形成が可能となり、実用上の優位性が得られている。小型化による低コスト化や、冷凍機のみでの稼働が可能となることによる液体ヘリウ
ムフリー化が経済的優位性をもたらしている。現在、重粒子線超電導小型回転ガントリーを提供できる唯一のメーカであるとともに、単結晶引上げ用超電導磁石の市場占有率 39%を実現している。
3.「将来展望」
重粒子線がん治療用超電導小型回転ガントリーを世界に先駆けて開発し、マイルストーンとして国際的評価を受けるとともに、多様な3次元形状コイルへの展開が期待され、次世代がん治療装置である量子メスプロジェクト等の開発を進めるなど、さらなる学術的・経済的貢献が期待される。