第69回大河内記念生産賞
直接スラブ鋳造と表層組織制御による
チタン薄板の新製造プロセスの開発
日本製鉄株式会社
東邦チタニウム株式会社
1 開発の背景と内容
我が国は世界有数のチタン薄板の製造国であるが、国外メーカーの技術力が高まりつつあり、国際競争力を優位に保つ必要がある。チタン薄板を製造する際、製錬・溶解・圧延するプロセスにて結晶組織由来の品質欠陥が出やすいため、欠陥を低減し品質と歩留まりを向上させることが非常に重要である。また、チタン薄板の製造工程は、製錬・溶解メーカーと圧延メーカーとが分業となっていることが多いが、本開発は表面欠陥が少ないチタン薄板の圧延素材を歩留まり良く製造する技術をチタン薄板製造の上工程である製錬・溶解企業と下工程である圧延企業とが共同で実施したものである。
2 特徴と成果
スラブ形状に鋳造したチタンインゴット(直接スラブ鋳造)の表層付近の結晶方位を制御することで圧延時の欠陥発生を最小化できることを見出した。具体的には、チタン原料を溶解するハース及びインゴットを鋳造する鋳型内への電子ビーム照射条件を調整して、鋳型内での溶湯温度と引き抜き速度とのバランスをとり、初期凝固シェルの成長方向や厚さを最適化し、凝固結晶の方位を狙いの方向に一定程度制御することが可能となった。さらに凝固後の該インゴットの表面および表層に、鋳肌欠陥等の無害化を図る表層処理を施した。これらの処理により、従来実施していたインゴットからスラブを製造する熱間工程の省略を可能とするとともに、圧延時の疵を低減する事ができた。その結果、トータル歩留まりとエネルギー効率の大幅な向上等が実現でき、品質、価格ともに国際競争力のある高品位チタン薄板の生産に成功している。本開発プロセスにて製造したチタン薄板製品は2016年度から出荷を開始し、21年度までの出荷量は3万トンを超える規模である。本開発プロセス製品の国内シェアは高位にあり、世界シェアもそれに相当する。
3 将来展望
チタン薄板はその優れた耐食性により、水素製造のための水電解装置の部材としても注目されており、今後、市場拡大が期待できる。