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第69回大河内記念賞

プロパンのアンモ酸化触媒とそれを用いて
アクリロニトリル製造技術の開発
旭化成株式会社 日名子 英範、他4名

 

1 開発の背景と内容
Mo-Bi系複合酸化物触媒を用いて、プロピレンをアンモニアと空気存在下でアンモ酸化してアクリロニトリルを製造する技術(プロピレン法)は1960年に工業化され、旭化成においても技術導入によりアクリロニトリル製造に参入した。継続的な独自の触媒開発によってプロピレン法の効率化を達成した。プロピレンは石油から取れるナフサをクラッキングして得られるため石油価格の影響を受けやすい。一方、アクリロニトリルを飽和炭化水素であるプロパンとアンモニアから酸化触媒によって製造する技術(プロパン法)の開発に1994年から着手した。プロパンは天然ガス由来のため石油に比べ安価で、プロパン法の開発は脱石油型製法確立の意味を持つ。アクリロニトリルの高い収率を目標に、触媒の長寿命化、触媒構造の解明を行い旭化成独自のMo-Sb-V-Nb系複合酸化物触媒の開発に成功し、触媒の酸化還元度を量産スケールで精密制御する技術を開発した。さらに実機に応用する際の不安定流動床反応器内の精密温度制御技術開発にも成功し、天然ガスを産出するタイにプロパン法によるアクリロニトリル製造プラントを建設し2013年より商業生産を開始した。

 

2 特徴と成果
プロパンからプロピンレンを製造する触媒を開発して、従来のプロピレン法触媒と混合して使用すれば同様の製造技術は簡単に実現しそうであるが、アクリロニトリルの過剰酸化が抑制出来ず、新たな触媒を開発する必要があった。プロパンからアクリロニトリルを製造するMo-Sb-V-Nb系複合酸化物触媒は旭化成のオリジナルな技術であり科学的にも高く評価出来る。タイの生産プラントでは9年後の現在も安全運転を継続しており、技術の完成度の高さを実証している。現在、アクリロニトリル製造において旭化成は世界2位のシェアをもち、従来型のプロピレン法と新技術のプロパン法の両方を用いて製造している。2つの製造技術を有する企業は世界的にみても旭化成だけである。

 

3 将来展望
触媒開発は現在も継続中でありさらに革新的な触媒が実用化される可能性がある。環境問題や様々な技術革新によって、そう遠くない将来、脱石油型社会の到来が予測されている。石油に依存しないプロパンを用いる旭化成による触媒技術・製造技術は時代を先取りしたものと言える。