第70回大河内記念技術賞
高濁度対応・高透水性中空糸膜モジュールの開発と
工業化
株式会社クラレ 薮野 洋平 他4名
1 開発の背景と内容
多様な工業プロセスにおいて大量に発生する排水を処理・回収することは重要な課題であるが、従来は、砂ろ過や凝集沈殿、活性炭・RO(逆浸透)膜などを組み合わせる方式しかなく、設備設置面積を取り、処理時間がかかり、コストも高く、また運転管理も煩雑であったため、高濁度排水はほとんど回収されず排出されていた。本開発では、高濁度対応および高透水性の機能を有する中空糸膜モジュールを開発・工業化したことにより、RO膜前を一括処理できる方式が実現し、再利用が困難であった懸濁物質を多く含む高濁度排水の効率的回収が可能となった。本開発内容とそれによる製品は、水の再利用を通して、持続的社会の構築や産業の発展に貢献するものである。
2 特徴と成果
高濁度水に対応し、かつ高透水性を達成するために開発された膜モジュールには、ポリフッ化ビニリデンを基本素材として独自の技術で構造形成させた中空糸膜と、独特のモジュール構造が用いられている。すなわち、中空糸膜においては相分離構造の形成における独自法を開発して、細孔径が原水側からろ過水側に向かって大きくなる傾斜構造を持たせた。これにより透水性と分離精度の両立が可能になった。一般的な中空糸膜よりも約5倍の高透水性が発揮できている。モジュール構造については、モジュール内の濁度成分の蓄積箇所を集中的に洗浄できる導水管構造と、中空糸膜1本1本が自由に動く片端フリー構造にすることにより、濁度成分の排出性を約10倍高めて高濁度水へ対応できるようにした。これらの膜モジュールの製造技術は、従来技術よりも高難度の課題を克服し、量産・安定生産化を達成している。半導体製造工場からの高濁度の排水回収用途を中心に、国内外で化学・食品・繊維など幅広い産業領域で採用されている。
3 将来展望
本開発は、様々な産業から排出される従来回収が困難であった高濁度排水の回収・再利用の高効率化を可能とするものである。わが国だけでなく海外の各種産業への展開、特に半導体製造などの電子産業などへ採用が進んでいる。更に排水の回収に加えて、上水道システムや物質生産プロセスへの展開も視野に入る。このように本開発は社会および産業の持続的発展に、また、環境問題にも貢献するものと考える。