第70回大河内記念生産賞
高炉の低炭素化とコスト削減に貢献する
コークス強度向上技術の開発
日本製鉄株式会社
1 開発の背景と内容
気候変動対策として「産業の脱炭素化《の重要性がますます高まっている。その中でも国内CO2排出量の約13%を排出する鉄鋼業の取り組みが注視されている。日本製鉄(株)ではカーボンニュートラルの実現に真摯に取り組み、高炉法でのコークス使用量の削減、低炭素化の技術として、資源が限られ価格が高い良質の粘結炭(強粘結炭)の使用量を減らし、価格の安い劣質炭(非微粘結炭)を50%以上の割合で配合する条件で高強度コークスを製造する技術を開発し、製造したコークスを用いて鉄鋼の実生産を行っている。本技術によってコークス量の削減と同時にコスト削減を実現した。劣質炭の配合は以前から検討されているが、50%を大きく超える74%の配合率で実装されている技術は他にはない。本技術は、将来の高炉を用いた水素還元技術と組み合わせることも視野に入れた汎用性の高い生産技術である。
2 特徴と成果
製鉄において高炉法を使用する際には、コークスは、鉄鉱石の還元材、鉄鉱石等を溶解するための熱源、そして還元ガスの通気性や、溶融した鉄やスラグの通液性を確保するスペーサーとして重要な役割を果たす。高炉法による製鉄の低炭素化を進めるには、高炉内のスペーサーとして強度の高いコークスが必要である。日本製鉄では、劣質炭の配合によってコークスの強度を低下させる欠陥の生成機構を独自開発手法により解析し、欠陥生成機構の違いに基づき劣質炭を3つの種類に分類した。さらに、各種劣質炭の配合構成比と粉砕粒度を最適化し、配合構成比に応じて粘結補填材を添加することにより、製造されるコークス中の欠陥を低減し、高い強度を実現する技術を開発した。製造したコークスを実際の大型高炉で使用するシステムを確立し運用している。コークスの高強度化によって原料の石炭の使用量が削減されCO2排出量削減に貢献するのみならず、劣質炭の配合率上昇によりコストダウンにつながった。本技術は九州内の同社の高炉およびコークス炉に導入済みで実際の鉄鋼の生産に使用されている。
3 将来展望
日本の鉄鋼業は永い歴史の中で様々な創意工夫がなされ充分に成熟した生産プロセスを既に確立している。一方で鉄鋼業における低炭素化は地球規模の課題であり、脱炭素化を目指しつつ、既存製鉄設備を活用できる本低炭素化技術の国内外への展開は、地球規模の鉄鋼業の持続性に貢献するものと期待できる。