第71回大河内記念技術賞
スマートセル活用によるコレステロールエステラーゼ大量生産技術開発
旭化成ファーマ株式会社 小西 健司 他4名
1 開発の背景と内容
脂質分析用臨床検査酵素であるコレステロールエステラーゼ (CE)は、大腸菌等を用いた従来の遺伝子組換え技術では生産が困難で、生産菌Burkholderia stabilisの育種でも高生産化は達成できていなかった。一方で、CEの社会的需要は高まり続けており、新たな手法による高生産化・大量製造技術の開発が必要であった。本業績は、CE生産菌B. stabilis野生株を基盤とするスマートセル(細胞がもつ物質生産能力を人工的に最大限まで引き出し、最適化した細胞)を開発し、培養および精製工程の最適化を行うことで、低コストCE製造法を確立したものである。
2 特徴と成果
B. stabilis野生株の全ゲノム解析および次世代ゲノムシーケンス解析の結果をもとに、遺伝子を構成的に強く発現する新規プロモーターを選定した。また、無作為な遺伝子破壊実験および突然変異導入実験により得られた変異株のCE生産量と遺伝子配列解析との相関を検討し、外来プラスミドDNAの排除とコピー数抑制に寄与する3つの遺伝子を同定した。そして、新規プロモーターと当該3遺伝子を破壊した宿主を組み合わせることで、野生株と比べ30倍以上の生産能力をもつスマートセルを開発した。さらに、過去数十年に渡って積み重ねてきた酵素生産技術を活かすことで、培養および精製工程を最適化し、さらなる高生産化と確かな品質を確保したCE製造法を確立した。今回開発したスマートセルを用いることで、CEの生産性は既存の野生株由来CEと比較して30倍以上に向上した。スマートセルにより製造した組換えCEは2023年度より販売を開始している。
3 将来展望
世界的な健康意識の高まりにより脂質異常症の検査と、それに用いる体外診断用医薬品への需要が高まっており、その原料についても今後も需要が拡大することが見込まれる。本製品を体外診断用医薬品原料として国内外に供給することを通じ、その需要を満たすことで脂質異常症の検査に貢献していく。