第71回大河内記念技術賞
低コスト・高精細OLEDディスプレイを実現する産業用インクジェット装置の開発
パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社 吉田 英博 他2名
1 開発の背景と内容
OLEDディスプレイパネル製造の薄膜形成においては、材料使用効率や省エネの観点から、インクジェット方式の装置開発が重要となっている。そのため、高粘度インク材料を用いた均一膜形成と高精細パターンを実現する装置の開発が必須となっていた。本業績では、ノズル毎のインク吐出体積を調節し、大面積をワンパスで印刷可能なインクジェットヘッドの開発と、高精度ステージ制御技術を創出することで、高精細OLEDパネルを効率よく安定に生産する技術開発を行った。
2 特徴と成果
微小液滴吐出とインク循環システムの開発によりメンテナンスが少なくて済む高安定化インクジェットヘッドを開発した。また、大判パネルへの印刷において、乾燥ムラを抑制するワンパス印刷技術と表示ムラを抑制するピクセル間の印刷体積制御技術の開発に成功した。更には大型ステージのヨーイング補正と経時的な印刷安定性を実現する吐出タイミング補正制御技術を実現した。これらの技術の融合により、インクジェットヘッドのメンテナンスフリー、ムラフリー、大画面・高精細パネルのワンパス印刷を実現する世界初の量産対応型産業用インクジェット装置を実現した。
3 将来展望
本開発技術により、世界で初めてインクジェット方式による204ppi OLED パネルの量産に貢献した(2017年)。今後、μLED のような次世代ディスプレイ量産にも適用が期待され、高輝度、高精細で視認性に優れたデジタルサイネージやスマートウォッチなどの屋外用途ディスプレイへの適用が見込まれる。世界中で拡大するディスプレイ市場を支えると共に、ペロブスカイト太陽電池やリチウムイオン電池などのエネルギー分野にも本開発装置の適用が可能である。そのため、次世代基幹産業として重要なエネルギーデバイス製造にも、幅広く貢献することが期待される。